ロンドン研修レポート その3 HEC訪問

こんにちは、研修先のロンドンから事務局の伊藤です。
現地団体訪問の第二段として、HEC Global Learning Centre (HEC)に行って、代表のアーリアさんにお話を伺ってきました。


HECは地域の学校や、教員と根付いた実践をしていて、特にタワーハムレッツ区(グレーターロンドンの33の自治区の一つ)を中心に活動をしています。

タワーハムレッツ区は、ロンドンの中でも最も移民が多い区の一つで、特にバングラディッシュ系が多いことでも知られており、低所得者向けの公営住宅も多い地域です。地理的には、シティオブロンドン区の金融街が隣接し、20分も歩けば町並みがどんどん変わり、違いがはっきりわかります。

左がタワーハムレッツ区、右がシティオブロンドン区

この地域では、多様な背景の移民に加え、汚染や貧困、識字率が低さなどさまざまな困難に直面しており、community cohesion(地域の団結)がHECや地域にとってとても大事になっています。

HECが入っているTower Hamlets Professional Development Centre

プログラムや教材について

HECでは、およそ60校の学校とプログラムを実施していて、生徒へのリーチは数千人におよぶとのこと。おもに教員向けのプログラムに力を入れており、一年にわたり先生と一緒に実施するプログラムから、単発のワークショップまで様々だそうです。今回は特に、いただいた二つの冊子を中心にHECでのプログラムについてお伝えします。他、たくさんのプログラムはぜひHECのホームページを見てみてください!

1.作文コンテストの結果をまとめた冊子

『Writing Competition(作文コンテスト)』としてHECが、タワーハムレッツとシリアの子ども達とのチャンネルになることを目的に作成されたもので、「移民」「平和と対立」「agency to change(変化の担い手)」「私の夢」といったテーマをたてて、受賞作品をまとめた冊子です。

シリアの子どもの作文についてはアラビア語をあえて残し、英訳したものと合わせて冊子にしています。

 http://www.globallearninglondon.org/past-projects/this-is-my-dream/
This is my dream

この冊子は、タワーハムレッツの3人の子どもたちがchild grooming(児童買春なども目的で子どもに取り入ること)され、シリアで亡くなったことをきっかけに始まりました。

2017年のテーマは「これが私の夢」についてでした。タワーハムレッツとシリアの子どもたちが、作文コンテストという形で、お互いについて、そして、お互いの未来について考えあう場になっており、素晴らしい冊子です。

一方で、その内容は、シリアの子どもたちが直面しているあまりにもひどい現実や、タワーハムレットに住む、恐らく元子ども兵や、難民としての苦悩などが、詩的に書き出されており、読んでいてとても辛いです。ぜひ、多くの人の目に触れてほしいと思いました。

2.Creative communities 

もう一つの冊子は、『creative communities(クリエイティブ・コミュニティ)』という冊子で、community cohesion(地域の団結)のために、学校で子どもたちが主体的にアクションを起こしたプロセスやアクティビティをまとめ、ハンドブックにしたものです。

各学校のアクションには、地域の課題だけに目を向けるのではなく、地域のいいところをみんなで知り合うためのアクションなどもあり、そこでは、教員はファシリテーターとなり、生徒会と生徒が主体となり進めるプロセスが興味深いです。

タイトルや表紙も生徒のアイディアでまとめられたCreative Community

この冊子は2016-2017にかけて行われプロジェクトをまとめたもので、タイトルや表紙も生徒のアイディアだそうです。

プロジェクトを進める際は、学期の初めに2時間半ほど教員研修を行い、そこで開発教育の理論や、枠組み、アクティビティなどを紹介して、その後は「とにかく先生に任せる」という事でした。

もちろん、ターム中はずっとメールのやり取りも行うし、アイディアの提供はするけれども、一緒にプログラムを作る中で、必ず「あなたはどう思うか」、「教員や生徒がハッピーであるか」どうかを大事にし、基本的に先生に任せること、そして、時には彼らに挑戦する、「critical friends(批判的な友人)」であり、一緒に決めていくことが大切という事がとても印象的でした。

訪問を通じて、いかにHECが身近な問題と向きあい、地域とのつなぎ役であるという意識をもち、また教員や子どもたちの声やオーナーシップを大事にして、活動しているかということを強く感じました。

ここで、HECと一緒にプログラムを実施している図書館、Tower Hamlets Schools Library Serviceを紹介します。

HECと同じ建物内にあるこの図書館は、小中学校の教員のためのリソースセンターとして機能していて、一般向けには開かれていません。授業で扱う題材やテーマを司書に伝えると、適切なリソース(本、絵本、映像、民族衣装、パペットなど多数)をそろえてくれます。

ちなみにこの日は、第二次世界大戦時に使われたブーツをお求めの先生が訪問されていましたが、残念ながらそれは所蔵されておらず‥(司書の方が悔しそうに、ヘルメットとカバンならある!とのこと、これからゲットすると意気込んでいました)。

どうも、ブーツ底の摩擦について授業で取り扱うらしく、それがどのように戦争に影響を与えたか、のようなことを授業で取り扱うようでした。面白いですね。このような豊富なリソースと、司書のアイディアお借りすることで、学習がより幅広くそして深い学びにつながると思いました。

リソースがいっぱのライブラリー

学校が図書館に対して「チケット代」を支払い、チケット一枚に対して先生が一学期間70アイテムまで、借りられるシステムです。70アイテム内であれば、交換はいつでもしてくれるそうで、限られたリソースを独占しない上手い工夫だと思いました。

リソースは本当に多岐にわたり、結構大きな本やら立派な衣装もあり、学校の申し込み内容によっては、配達も行っているそうです。

学校としては約70校が登録しているとのことですが、学校への補助金が減りつつあり、登録学校数も減りつつあるとのことでした。そのため、タワーハムレッツ以外のロンドンの学校にも範囲を広げているとのことでした。

ロンドンでも学校の先生は忙しいという認識で、なかなか準備をする時間がなく、こういった取り組みでサポートしているのは素晴らしいし、授業で使えるリソースがいっぱいの素敵な空間で、個人的に気に入ってしまいました。(報告:伊藤)

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