実践報告!ウクライナ危機をめぐる新聞記事を題材に

こんにちは。DEAR理事で埼玉県立伊奈学園中学校の松倉です。

ロシアとウクライナの情勢をめぐる一連の報道に憤り、恐怖、不安、そして「今、わたし・わたしたちは何をしたら…」と考える日々が続いています。開発教育の実践をこれまで続けてきて、今、この危機を教室の中でどう考えていくのか、少々悩みながらも「問いづくり」に着目した実践の中でウクライナ危機を題材として、中学1年生のクラスで実践を行いました。

今回の授業では、

  1. まずは「問いづくり」をとおして、ウクライナとロシアをめぐる情勢について多様な視点を持てるようになること
  2. ここから「もっと知りたい」という気持ちを抱けるようになること
をねらいに授業を構成しています。

情勢は刻一刻と変化しています。そのため、どのタイミングで、何を主題に取り上げるのかは悩ましいとは思いますが、ロシアとウクライナをめぐる情勢について話し合うきっかけづくりの授業になるのでは、と思い実践を紹介します。

もくじ

  1. 実践の前に
  2. 実践
  3. グループワークから:記事から作成した「問い」
  4. 授業後の感想から

1)実践の前に

◉実践をするにあたって考えたこと

  • 「〇〇」が悪い、「〇〇のせいだ」という一面的な結論に至らないようにしたい。
  • 「現在」の事象だけでなく、歴史的、地理的な状況も踏まえて考えられるようにしたい。
  • 「事実」を読み取りながら、多様なアクターがいることに気付いてほしい。
  • 新聞記事に書いてあるその「裏側」(背景)に目を向けられるようにしたい。

◉「新聞記事」の選択にあたって考えたこと

  • できるだけ「事実」を多く記述している記事。
  • ウクライナ側、ロシア側、また国際社会の反応など、多様な視点から書かれている記事。
  • 歴史的背景に触れている記事。
  • 地図の掲載がある記事。
今回は「朝日中高生新聞」(2022年2月27日号)を用いて実施しました

2)実践   

◉前日(2月28日)
  • 事前に扱う内容についての新聞記事を配布。
  • 記事の内容を読んで疑問に思うことについて3つの「問い」を考えておく、もしくは気になる部分に線を引いておくように指示。
◉当日(3月1日/オンライン授業・90分・総合的な学習の時間で実施)
  • 対象:中学1年生(80名)
  • メインファシリテーター:松倉 + サブファシリテーターとして学年職員3名で実施
◉導入(20分)

オンライン参加にあたってオリエンテーション
➁授業のながれの確認
  • 「問い」づくりについて
  • 題材について
  • 参加にあたって
  • アイスブレイク(ブレイクアウト練習/Q:朝ごはん何食べた?)→ 全体で共有
※4つの約束(右図)を提示・説明

◉展開(休憩含め60分)

③新聞記事について:記事の内容について確認(文言、地図の確認)

④個人作業で、記事から3つの「問い」を作成
 →グーグルスライドに記入

⑤グループワーク:ブレイクアウトルーム(4〜5人)で、それぞれが作った問いを紹介しあう。
 ※教員はスライドのリンクを共有。
 ※教員もブレイクアウトに入る&グループをまわる。

⑥問いづくりについて説明:5W1Hの問い、YES/NOで答える問い

問いづくりのポイントを説明

⑦自分がつくった問いの再考:何を聞きたい問いなのか、もう一度考える。

⑧グループワーク:ブレイクアウトルーム(4〜5人)で、それぞれの作った問いが「何についての問い」なのか分類し、タイトルをつくる。
 ※グーグルスライドで作業する。
 ※教員もブレイクアウトに入る&グループをまわる。

⑨他のグループのスライドを見て、気付いたこと、印象に残った問いを全体で共有

◉ふりかえり(10分)

⑩ ふりかえり記入:「問い」づくりによって学びが深められることに触れる

3)グループワークから

「ロシア、ウクライナに侵攻」の記事から生徒が作成した「問い」(抜粋)



4)授業後の感想から

▶︎問いづくりについて

  • 一枚(?)の新聞を見ただけで、こんなにも疑問が生まれるのだと知り、驚きました。みんなが持った疑問と自分が持った疑問が全然違うことにも気づけた。
  • 普段自分が新聞を読むだけで終わってしまっていると分かりました。読んでそこから何故、どうしてと考えるところまでいかなかったので、これからは読むだけではなく考え、可能なら他の人に話してみることが大切だと感じました。 
  • 自分では知ったつもりでいたニュースや記事について問いづくりをしてみると知らないことが多く、自分は「何が起こった」ということしか知らず原因や影響まで考えることが出来ていなかったことに気づけました
  • ニュースを聞いていると納得してしまっていたことが多かったけど、今回問いをつくってみてニュースが全てじゃないないなと思いました。また、私はニュースをみて1つの視点からしか見ていませんでした。でもいろんな視点から考えることで内容が深まっていくことに気づきました。
  • いきなり答えを調べるのではなく、まず問いを作ってからだと答えがとても気になりました。

▶︎ロシアとウクライナの関係について

  • 💬戦ってまでして自分の思い通りにしたい人間ってなんなんだろう、って思った。本来、人間は「平和」を求めるものなのでは?
  • 💬ウクライナとロシアについて、沢山ニュースを見たり調べてみたりしてみたものの、なかなか詳しい原因や現状を把握しきれていなかった。どんな状況でも「平和」を築ける社会をつくりたいと思った。
  • 💬ロシアとウクライナで起こっていることは、自分とは関係がないのではなくて、自分ごととして考えることが大切だと気づいた。問いづくりしながら、ロシアのこともウクライナのことも、あとは他の地域の戦争(紛争)のことも歴史と続いている、と思った。遡って知りたい。
  • 💬「ロシアが〜」「ウクライナが〜」と表面だけで考えるだけでなく、『ロシアにいる人々は〜』と現地の人々の気持ちを考えながらニュースを見ていきたいと思いました。
  • 💬戦争という手段ではなくて、他の方法はなかったのか疑問をもちました。また、戦争と聞くと昔のことのように考えてしまっていましたが、現在でも起こるということがわかり、自分ごととして考えるようになりました。

▶︎教師のふりかえり

授業に参加した先生たちとの「ふりかえり」では、次のような感想がありました。

  • 中学1年生の生徒が世界で今起きていることについて「自分ごと」として語っている姿が印象的でした。平和な社会をつくるためにもっと話し合っていきたい。また、この授業から大人が学ぶことも多いと思う。
  • こちら(大人)が思っていたよりも、記事の内容をしっかり読めていた。生徒の関心の高さを実感した。問いづくりをとおして、今後は表面だけを切り取った情報だけを鵜呑みにするのではなくて、その背景にまで目を向けるようになれたのではないか
  • 題材を「ロシアーウクライナ」の話題にして良かった。(中1が)どこまで話せるのか?と思った部分はあったが、やはりみんなが気にしていること、不安に思っていることを話す場をつくれたのが良かった。
▶︎後日談
この実践をおこなった翌日、社会科の授業では、生徒たちが作った「問い」を使って、ウクライナとロシアをめぐる情勢について取り上げ、話し合う機会をつくりました。授業では、生徒たちが知りたいと感じていた「歴史」に触れ、歴史的な背景と現実社会の課題を関連づけて考えることができました。また、わたしが担当する英語科では、このあと英字新聞をつかって世界でどのように報道されているか触れる予定です。学年の先生と協力して実践をつくることで、教科を横断し、学びを深めることができた実践になりました。

ウクライナ危機をめぐる実践は、これから各地で多様な実践が生まれてくると思います。その際に、生徒に「調べてみよう」と投げかけたり、「知っていること」を書き出したりする活動からスタートする授業の方法もあるでしょう。これまでの学習の流れや該当する学年によって、実践方法は多様です。

その方法の一つに「問いづくり」から始める授業を候補に挙げてみませんか?

わたしは、この実践をとおして、生徒が何に着目し、何を知りたいと思っているのか、に気づくことができました。そして、この実践をきっかけにして、引き続きウクライナ危機をめぐる社会情勢を追いながら生徒たちが考えた「問い」をもとに実践を展開していきたいと考えています。

(報告:松倉紗野香)

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