セミナー報告「秋田と世界をつなぐ国際協力~失敗からの学び」

こんにちは、スタッフの伊藤です。

先日、秋田で20年間、バングラデシュの村の支援をおこなってきたバニヤンツリーの藤本恵子さん(代表理事)とバングラデシュ出身で現在秋田大学の教員をされているカビール・ムハムドゥルさん(副代表理事)をお招きし、SDGs教材づくり実践セミナー「秋田と世界をつなぐ国際協力~失敗からの学び」を実施しました。

進行役は山形から阿部眞理子さん(認定NPO法人IVY)にご依頼しました。


バニヤンツリーとお話の趣旨について

バニヤンツリーには、主に海外と国内事業があり、海外では、バングラデシュ・デビシャウル村における、教育、保健・衛生分野での活動を行っています。国内では開発教育を視野に入れた地域活動を行っています。

今回は、その中で海外事業の教育活動の一つである、バニヤンツリー奨学金制度で起きたハプニングや、心温まる成果を中心に、グループワークをはさみながら、参加者とともに、国際協力のあり方について考えました。

バニヤンツリーの奨学金制度

奨学金制度が始まったきっかけは、10年に一度くらい大学進学者が出ていたデビシャウル村で近年、経済的理由などから学校に行けない生徒が出てきており、村出身者や関りがある人たちから、教育環境の低下を危惧する声が上がっていたそうです。

そこで、バングラデシュの農村の学習環境の改善に協力し、様々な分野で努力する生徒を応援し、進学の選択を可能にするためにこの奨学金制度が始まったそうです。

これまでこの奨学金制度で、トフラさんは警察官に、サズさんは日本の貨物船会社に就職、ラヒマさんは眼科看護師に、ファズルルさんは国立ジャガンナート大学修士課程修了するなど、嬉しい成果がありました。


奨学金制度の選抜をめぐって、何が起きた?!

この制度の開始当初は、選抜のために読書感想文コンテストを実施していました。

デビシャウル村の生徒達と一緒に選んだ50冊の本を書店から購入し、現地のライカリハイスクールへ寄贈し、BanyanTree図書コーナーを設置し、子どもたちはその中から一冊選んで、感想文を書くということになっていました。


しかし・・・ここで問題発生です。

提出された感想文を読むと、なんと応募者全員が同じ本の同じような感想文を書いていたのです。

ここで、最初のクイズ!!
一体なぜこのようなことが起きたのでしょうか?

参加者からは、
「文字が読めなかったのでは?」
「感想文を書く習慣がないのでは?」
「そもそも感想文の意味が分からなかった?」などの意見がでました。

消えてしまった本、あなたならどうする?

バニヤンツリーの藤本さんから明かされた衝撃の事実。 

実は読書感想文コンテスト用の本はすべて校長先生の自宅に置かれていたそうです。
そして校長先生が一冊の本の一部をコピーし、生徒に配布していたのです。
この年、予定していたコンテストはできなくなってしまいました。

そこでさらに質問です。
消えてしまった本、あなただったらどうしますか?
あきらめますか、あきらめませんか?その理由は?
ここで、グループに分かれてそれぞれ考えました。


グループの意見:

  • あきらめない:お金をかけたもの。理由があるなら直接聞きたい。
  • あきらめない:わだかまりを持ちたくない。今後の関係性に関わってくる。一方で関係性を考えると校長とやりとりをしない方がいい。感想文が日本の発想。主旨が伝わっていなかったのでは?
  • あきらめない:カウンターパートとどういう合意だったのか。校長先生から戻したいが、現地の関係者とセンシティブになるので表現に気をつけるなどの必要がある。

などなど、皆さん現地での活動経験から、かなり具体的なお話が出てきました。

あなただったら、どう奨学生を選ぶ?

そこで、さらに、藤本さんから質問です。

予定していたコンテストができなくなったわけですが、では、どのような方法で奨学生を選んだらよいでしょうか?今ある情報の中で、またグループに分かれて考えました。


グループの意見:

  • 奨学生に選ばれたらどうしたいか、などを作文に書いてもらう。元のアイデアを活かして、軌道修正しながら、感想文ではないやり方でする。事業を実施する現地の主体をうまく形成する必要がある。
  • 男女比、学校での成績、子どもの背景家庭の経済状況を考慮する。現地で半分、バニヤンツリーで半分選ぶという話とともに、人を選ぶのは難しい。選定基準は難しいという話が出た。
  • 選定基準が凝れば凝るほど、選んだ人とその後にどうやって歩んでいくかのフォローの方が大事。
  • 授業中の態度、本人の意思を個別面談、収入レベルに応じて金額を変えて、より多くの人に提供できる仕組みにする
  • なぜ読書感想文だったのか。子どもの多様性から考えると、得意な子も、不得意な子もいる。テーマを自由にすると評価が大変。子どもの学力的なスタートラインが違う。スロースタートの子も、早熟な子もいる。学年もきれいに分かれていない中で、同じ課題を与えるとスロースタートの子どものモチベーションが下がるので注意すべき。みんなができることとしては、大学に行きたい意気込み、行きたいけどなぜいけないのか、というところを語ってもらう。

など、それぞれの観点から、奨学生を選ぶ方法について考えが共有されました。

バニヤンツリーではどうしたのでしょう?

では、バニヤンツリーは、どうしたのでしょうか?
藤本さんに、お話を続けていただきました。

バニヤンツリーでは、周りへの影響が大きいことから購入した本はあきらめるも、読書感想文コンテストはあきらめられず、この出来事を題材に、問題解決型ワークショップとして、良いアイデアを見つけるための時間を設けたそうです。

その中から、デビシャウル村の生徒の家に貸出図書室を作るということを試してみました。

しかし、当初、図書貸出カードが定着せず、また家の人の負担が大きいことから、感想文コンテストも行うことができませんでした。その年度は、結局、ライカリハイスクールの学生に対して、「私の夢」というテーマを設定して作文コンテストを実施しました。

この辺りから、ライカリハイスクールから離れ、広くデビシャウル村の子どもを対象にしていくことになります。

小さな子どもに対しては「村の絵を描く」、中学生・高校生に対しては、「私の夢」をテーマにした作文コンテストを何年か続けます。

そして、作文から課題を含めいろんなことが見えてきました。それらの課題に対して生徒が自分なりの解決方法を考えていると考え、高校生を対象に、話し合いのワークショップの場を設けるようになります。

自分のことだけでなく、村の暮らしや農業など、村の未来を考えるテーマに発展していきます。農業に対する関心が高く、こちらの調査への協力など、ワークショップを超えたバニヤンツリーとの関係ができていきます。

この活動は、秋田の地域にも波及します。

秋田の高校生に、デビシャウル村の事情を話し、自分だったらどのようなコンテストにするかを考えてもらいました。例えば、自由研究というテーマがあがり、小学生向けのテーマで実践することになりましたが、現地のスタッフに言わせると、あまりにも自由だと何をしたらいいか分からないと指摘され、これまでの絵を描くというテーマを踏まえ、「自由に絵を描く」ということになりました。

奨学金制度事業を通じたさらなる成果

奨学金制度は2017年度に終了したのですが、その後、この活動の第2の成果とも言うべき展開になります。

2018年度以降、2001年度(初年度)の奨学生で、すでに社会人になった人たちが独自の奨学金制度を立ち上げ村の子どもたちを応援するようになります。

バニヤンツリーは何をしたらいいか尋ねたところ、自分たちがお願いすることに対して協力してほしい、と言われます。それから3年になりますが、現段階でお手伝いの要請はないそうです。

バニヤンツリーの活動をFacebookを通じて、「いいね」をしてくれたり、貨物船で働いているOBは日本海を通るときに電話をしてくれたり、村の活動について現地スタッフではなく秋田にいる藤本さん達に直接報告してくれるそうです。

それによると、毎年お金を出す自分たちでどうするか考え、トロフィーなどを出しているそうです。

村でのワークショップを手伝ってくれた奨学生たちが、自分たちが、主体的に申し出てくれたことはとても嬉しいとお話されていました。

最後に

最後に、バニヤンツリーとして大切にしたい事をお話いただきました。

  • まず状況を知ること。
  • 課題を自分事として考えてみる。
  • なんとなくではなく、具体的な解決方法を探り行動に移すこと。そして、意見の発信や情報を共有する場を設けること。
藤本さんはこれらを忘れないようにしながら、関わる人たちが一緒に考えられる活動をしていこうと思っていますと、お話ししてくださいました。

また、バングラデシュから非常に多くのことを学んでいて、バングラデシュで料理を習って、秋田でレシピを起こし、料理教室を行っているのもその一環だそうです。


その後、カビールさんからもお話ししてもらいました。

村では、教科書や受験などちょっとしたお金がないと進まないことが現実にあり、少しの手助けが、前に進むことにつながり将来につながることが強調されました。

また、例の消えた本については、カビールさんは直接村に行って校長と話されたそうです。

校長は読書コンテストのことは忘れていて、逆に「自分のポケットマネーを使って本を学生分印刷し、こんなにがんばったよ!」アピールされたそうで、本を自宅に持って帰ったことに悪気はなく、学校のものは自分のもの程度の感覚のようだったそうです。

この経験から、藤本さんも自分たちの感覚では決められないと気づいたそうです。

村には村の、大人には大人の事情があり、自分たちが目指すのは校長先生の追求ではないので、本についてはきっぱり諦めたということでした。また現地スタッフが色々動いてくれており、任せるということにしたそうです。

参加者の感想(抜粋)

  • 正に、「失敗からの学び」のテーマにふさわしく、大事なご経験を教材として創り上げ、自身の活動を振り返り、活かすこと等できたと実感した。単に発表、報告いただくよりも、バニヤンツリーさんの活動をよく考えるきっかけにもなり得ると思いました。
  • NGOの活動は何と言っても人と人のつながり、関係性が大事ということ。
  • 支援する際には、現地の人の価値観や文化、状況を考慮することが大切だと改めて感じさせられた。
  • 現地とのコミュニケーションや、失敗から学び軌道修正していくことの大切さを学びました。活動を継続していくことで、バングラデシュと日本、両方で人が育っていった成果は素晴らしいと思いました。
  • いろいろな団体、個人に歴史あり。何でも活かして共に考えるきっかけとなり得ると改めて感じました。また、バングラデシュのカビールさんが当初から事業に関わってくださったことも大きく、現地の方の考えも日本の方々の考えをうまく融合させ、客観的主観的に関わられたのかと思いました。その地をよく知る人との協働は大事と感じました。
  • 自分たちの失敗例を基に、その原因は何か、そこから導き出せる教訓は何かを、参加者に考えてもらうワークショップという方法は使えると思いました。

今後も、SDGs教材づくり実践セミナーとして、東北を中心にゲストをお迎えして連続で実施していきます。DEARのメールマガジン、メーリングリストにてご案内をしますので、ぜひご参加ください!(報告:伊藤)

※本セミナーはJICA「NGO等提案型プログラム」に基づいて実施される受託事業「SDGs達成に向けたステップアップセミナー」の一環です。

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