「DEARカレッジ」第3回「貧困・格差」開催レポート

DEARカレッジスタッフの上條直美です。

カレッジ第3回「貧困・格差」のレポートをお送りします!
回を重ねるごとにテーマとテーマが絡み合い、複雑に…盛りだくさんの内容ですが、ぜひ最後まで読んでみてください!😀

★ディスカッション★

第2回「気候変動とエネルギー」のふりかえり、「今日はどんな一日だった?」のつぶやきアイスブレイク(それぞれチャットに書き込み)のあと、グループになって宿題の共有。

宿題:SDGゴール1,ゴール10のターゲットと指標の一覧表を見て、指標の部分を参考にしつつ、ターゲットの中でキーワードと思うところに線を引いてくる。

こんな意見が出ました。

  • 移民・難民の指標に、「海・陸・空の国境を越えようと試みた際に殺害された移民の数」が、なんてリアルな数字なんだろうと驚きました。
  • 政府などの出しているデータはどのくらい信頼できるかわからない。達成しているかどうかをどのようにしたらわかるのか。
  • 「あらゆる次元」という書き方によって、さまざまな人が含まれるということと同時に、逆に取りこぼされる人がでるのではないか。

目標、ターゲット、そして指標設定のプロセスにはさまざまな思惑があり、かつすべてが網羅されているわけではないので、尊重しつつ、足りないところを自分たちで考えていく必要がありますね。

★講義(湯本浩之さん)★

湯本さんは、2020年からDEAR代表理事。宇都宮大学で教鞭をとっておられ、ここ10年は大学教育に携わっていますが、その前は、DEAR事務局長、さらにその前はJANIC(国際協力NGOセンター)と、実はNGO歴の方が長い方です。

湯本浩之「地球の学び」研究室
https://yumoto.net/

貧困・格差は開発教育の中でよく使うキーワードです。

その背景にどのような理論があるのかを、フリードマン、アマルティア・セン、ガルトゥングの理論から、それからどうやって貧困・格差を測るのか?ということでは、GDP、ローレンツ曲線、ジニ係数など知っておくとよいキーワードをお話いただきます。

それでは、講義スタート!

目標1と10をどう読み解くか?

目標1

◆絶対的貧困

定義:「1日1.25ドル未満で生活する人々と定義されている極度の貧困」

誰が定義したのか?:世界銀行がしており、MDGs(ミレニアム開発目標)でも目標1が貧困のことだった。当時、19億人の絶対的貧困者が存在し、半減を目指した。実際に半減したにも関わらず、サハラ以南のアフリカや南アジアの人々は取り残されたので、「誰一人取り残さない」がキャッチフレーズになった!

2015年には、1.9ドルに改訂された。

◆1.2「各国」の定義

相対的貧困を表している。私たちは日本国内の貧困を忘れてはならない。

◆1.3「適切な社会保障制度」

貧困問題を福祉政策で解決しようとしているが、セーフティネットで本当に救済できるのか?

◆1.4極度の貧困を終わらせるための「平等の権利」

権利という言葉は、従来の「貧困」概念の転換を表している。

◆1.5貧困問題と気候変動の関連

目標10


◆10.4,5税制・金融の改革・規制は重要な項目

金融健全指標?で所得格差が解消できるのか?

◆10.6途上国を社会的弱者やマイノリティに置き換えて考える必要がある。

◆10.7「良く管理された移民政策」とは?

国連の場で合意されたものなので、合意されなかったさまざまなことがあり、ここに書かれている不平等、格差だけではない。

貧困の捉え方

・欠乏としての絶対的貧困:人間としての最低限の生活、衣食住が満たされない状態

・貧困ラインは数字をいじるとこんなに様相が変わってくる!😮

1990年 1日1ドル 世界人口の36%が絶対的貧困
2015年 1日1.9ドル 10% 〃
2017年  〃     9.2% 〃
2020年  〃     9.1~9.4% 〃 (世銀の予想は、2030年は7%)

しかし、
1日3.2ドルで計算すると、25%
1日5.5ドルで計算すると、40%もの人が絶対的貧困になる。

先進国と途上国の定義

  • OECD加盟国38か国が先進国
  • ODAを受け取っている国が途上国。
  • 世銀)GNI(一人あたりの国民所得)で高所得国、中所得国、低所得国と分けている。
  • 国連)後発開発途上国(LDC)が47か国あり、最貧国とされる。

相対的貧困のキーワード:剥奪

  • ピーター・タウンゼント(1979年)「周囲の人々の日常的な習慣や活動が行えず、社会や集団から締め出された状態」
  • 絶対的貧困と相対的貧困がある。
  • SDGsの中で貧困はどう語られているか?世代間公正、世代内公正というキーワード。
  • 貧困格差をなくし、共生していくためには、人権尊重、平和実現と関連してくる。
  • フリードマン:「貧困とは各世帯が政治や経済にアクセスするために必要な『社会的な力の剥奪』である」。生きていくために必要な力や権利を奪われている状態をディスエンパワメントとした。それらの回復はエンパワメントであり、開発における権利アプローチを提唱した。

人間の安全保障

アマルティア・セン幼い頃飢饉を体験したときに、生き残る人、死ぬ人の境目は、政治的な力を持っているかどうかだと考えた。潜在能力/機能(健康、文字、収入、参加、意見表明等)を奪われている状態を剥奪と定義した。

そして、選択肢の拡大→自由の拡大→人権の保障→人間の安全保障。
安全保障の従来の意味は、国家の責任=国土を守る、だったが、人間の安全保障=恐怖と困窮からの自由と定義した。
  • 国家が国民を守るという大前提が崩れた現代社会。誰が国民を守るのか?
  • UNDPの「人間の安全保障」論:持続可能な人間開発による人間の安全保障を!

ヨハン・ガルトゥングの「暴力論」

  • 1960年代、アジア、アフリカの独立戦争後、飢餓や貧困、格差拡大、民族間対立などが起こるのを見て、飢餓や貧困を経済や政治からくる構造的な暴力と名付けた。
  • 人為的/直接的暴力、構造的/間接的暴力に加えて、そのような暴力を看過するものを文化的暴力と定義した。
  • 「平和論」として、消極的平和、積極的平和、文化的平和と定義した。

貧困・格差の指標

  • GDP(国内総生産)が経済の実態をどこまで反映しているのか?
  • 内閣府は具体的な計算方法は非公開なので検証できない。市場で売買される利益しか評価されないので、ボランティアや「レジ袋からマイバッグへの転換」は反映されない。
  • 新しい指標を作ろうとする動きや、ブータンの幸福度指数など独自の取り組みもある。
  • 一人あたりGDP上位国に共通するのは、金融立国、資源立国である。ガラっと様相が変わる。
ローレンツ曲線:所得や資産などの配分の不公平さ(格差)を視覚化したグラフ上の曲
  • 「均等配分線」公平に分配されていれば右上がりの斜線
  • 「ローレンツ曲線」配分に格差があるほど下に膨らんだ曲線
「100人村」をローレンツ曲線で表すと…
下にかなり膨らんだグラフです!つまり格差が大きいということです。😬


ジニ係数:0.4を切ると社会が不安定になる基準ライン。ジニ係数が小さい国は、北欧や社会主義国が名を連ねている。コソボ、セルビアは富自体が紛争によって無くなってしまったから…(なんということ!)

100人村をジニ係数でグラフにすると…
同じく格差が大きいことを示しています。😬


  • 世界の富豪8人の資産は貧困層36億人の資産と同じ!:個人資産が16兆円、19兆円は、インドネシアの国家予算、東京都の予算と匹敵!去年からビリオネアが665人も増え、総資産合計も増えている!コロナ禍でこれだけ利益を得ている!なぜ?
  • 相対的貧困率:手取り収入の半分の金額が貧困層で、日本の場合127万円がライン。
  • 子どもの貧困率:OECD調べでは、日本は中間だが、一人親世帯の数字は、先進国の中でもかなり低い。
いろいろな格差があるが、相互に関連している。

貧困・格差を学ぶということ

  • 持続不可能な現代社会をいろいろな観点から分析(探求)する上で貧困・格差は重要な学習課題である。
  • 開発教育の中心テーマだが、開発や発展の在り方を考え直す機会にする。
  • 多文化共生、人権、平和と結びつけて考える。
  • 一つの答えを見出すのが難しい、議論をしても立場が分かれるという、学校で扱いにくい課題を子ども・若者と一緒に考える。
  • 「私たちの世界を変革するため」に学ぶ。

最後に

今日は、貧困・格差をめぐり、環境、人権、平和、文化などの概念を重なり合ういくつかのキーワードを今日お話ししました。
VUCA(Volatility/Uncertainty/Complexity/Ambiguity)の時代を乗り越える価値やビジョンを若者に身に着けてほしい、と世界経済フォーラムの人々は考えているが、そのために学校、大学があると考えていいのだろうか?
 
「DISS(Diversity/Inclusivity/Sustainability/Solidarity) 多様性、包摂性、連帯性、持続性の提案」
持続可能な社会の創り手、誰一人取り残さずに世界を変革するための教育とは?

★SDGs学習のポイント(事務局長:中村絵乃)★

『SDGs学習のつくりかた』ハンドブックの中で、カリキュラム9が貧困、10が格差・不平等です。
  • 絶対的貧困に絞ったカリキュラムになっている理由:テーマとして扱う時に、子どもたちが目の前にいることを想定して、相対的貧困をテーマとして扱う難しさを考慮した。
  • 貧困はすべてのゴールに関わっていて、人間の尊厳にかかわっている。
  • DEARでは、格差・不平等の教材が多くあり、教材『コーヒーカップの向こう側』では、植民地支配から続く搾取の構造が現在の経済格差にもつながっていることを学ぶ教材になっている。単に格差が拡大しているというメッセージだけでは足りない。
  • 再分配の失敗(政治の問題)、税制や社会保障の問題という視点から日本の問題について考える。

★ディスカッション★

お題:「貧困・格差をなくしていく教育とは?」(みなさんの日常・現場の文脈に合わせて考えてください)

<意見の一部です>
  • マイノリティのあり方に心を寄せるような学習。
  • 教育という形は、授業だけでなく学校運営などもある。
  • 貧困、格差を認め、個人の努力だというような風潮が出始めているが、それをどう克服するか。
  • 競争の教育ではなく連帯の教育。
  • 教育を受けると都会や先進国に出てしまい、地元に戻らない、人材流出という問題がある。地域学習、地元愛を育てる必要性がある。
  • 都心の学校勤務。生徒も教員も貧困を実感しにくい現実がある。
  • 身近な貧困を考える教材があったらいい。

★受講生の感想(アンケートより抜粋)★

  • そもそも私たちが目指したい社会がどのようなものかを考える必要があることが分かった。DISSについてもっと議論したい。
  • 貧困と格差について話すことが怖い、自分には関係ないと思っている人に対してどう教育はアプローチしていけるか。
  • 海外の貧困はみていても、報道があっても日本の身近な貧困が見えないという「階級社会」日本の悩ましさを改めて実感。

★感想★

貧困・格差は開発教育でずっと取り組んできた“テーマ”。
改めて湯本さんの講義を聞き、受講者の皆さんの多様な議論と意見、感想をいただく中で、気づいたことがたくさんありました。

開発教育は、知り、考え、行動するというように、学習テーマを学ぶこと=社会の中で行動することなのです。つまりテーマであって、テーマでない?!

学んで満足、教えて満足、知って終わり、となってはいけないと改めて背筋が伸びました。(報告:上條)

事務局より:こちらのnoteも併せてどうぞ。
SDGs後の世界は持続可能なのか?ー「SDGsを学ぶこと」の死角と課題を考える(湯本浩之)

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