「DEARカレッジ」第5回「ジェンダー」開催レポート

こんにちは。DEARの中村です。
7月1日(木)に開催したDEARカレッジ第5回「ジェンダー」のレポートをお送りします!

ディスカッション

前回、「ジェンダーバイアスに関する『モヤモヤ』にアンテナを張る」という宿題が出て、家族や地域、職場などの課題をグループで話しました。

<グループ報告>

  • 夫婦別姓の話で、このご時世になって個人が選べないのはおかしい。
  • 保育園で男女を強調した歌や、印、色遣いなどがおかしいと感じる。
  • 女子会キャンプ、レディースデイ、女性専用車両などは逆差別なんじゃないか。
  • 海外で働いていて、帰国したら結婚しなければというプレッシャーがある。
  • 電車の中で女性が脚を広げて座ると批判される(女性らしさ、男性らしさ)。
  • 中学校での将来設計で「女性は家で男性は働きに出る」に対して、どうして?という教師もいればそうだね、という教師もいる。

最初から、たくさんのモヤモヤが出てきました。
うなずく顔もあれば、いまいちピンとこない表情も。
では、ここから講義に入りましょう。

講義(三輪敦子さん)

三輪敦子さんは、(一財)アジア・太平洋人権情報センター(ヒューライツ大阪)の所長、かつ、(一社)SDGs市民社会ネットワーク共同代表理事を務めています。

国連女性開発基金(現・UN Women)アジア太平洋地域バンコク事務所、(公財)世界人権問題研究センター等において、ジェンダー、開発、人道支援、人権分野の様々なプログラムの実施支援や調査・研究に携わり、アジアやアフリカの女性と接してこられています。近年は、女性の健康の問題を切り口にして女性のエンパワメントを実現するアプローチに関心を持っていらっしゃいます。

今回は、SDGsを軸に、世界的な視野で日本のジェンダー問題についてお話しいただきました。

講義内容の一部を紹介します。

1.SDGsとジェンダー平等

今から26年前に、第4回世界女性会議(北京会議)が開催された。実はちょうど、昨晩(6/30)から、1年延期となったものの北京+25を記念する「ジェネレーション・イクォリティ・フォーラム」(UN Womenおよびメキシコ、フランス両政府の共催)がパリで開催されている。

米副大統領のカマラ・ハリス氏のスピーチがあり、「ジェンダー平等は民主主義を強化する」という言葉が印象的だった。ユースの声、アフリカの女性の情熱的な声に圧倒された。世界はどんどん変わっていることを改めて強く感じた。

SDG5はジェンダー平等を実現しようという目標。6つのターゲットがある。

  • ターゲット1は差別について。実は、日本には差別とは何かを定義し、差別を包括的に禁止する法律がない。このことは国連からも課題として指摘されている。
  • ターゲット2では、私的空間と書かれていることが重要。少し前までは、家庭内は私的領域と考えられ、警察は家庭内の暴力行為に介入できなかった。
  • ターゲット3は、有害な慣行。海外だと女性性器切除や幼児婚などが挙げられるが、日本におけるコース別人事などもその一例。
  • ターゲット4は、無報酬の育児・介護・家事など。認識、評価と平等な分担が課題。
  • ターゲット5の意思決定への参加は、日本が世界から一番遅れている分野。
  • ターゲット6は日本では、女性が自分の身体を大切にする意識も知識も足りない。包括的性教育は日本の学校教育では実施されていない
SDGsの「一丁目一番地」としてのジェンダー課題、つまり、「誰一人取り残さない」最初の第一歩は、人口の半数を占める女性の課題に対応することであるという認識が重要。

すべての目標にジェンダー平等が関連しているということでもある。
それを実行するにあたり独立した目標を設定するべきかどうかについてはSDGsの策定過程でも議論が闘わされたが、独立した目標を設定すると同時に、ほかのあらゆる目標でもジェンダーの課題を盛り込むことを決定した。そのことにより、問題を可視化し、構造的要因に働きかけることができ、SDGsの確実な実施が可能になる。

2.日本のジェンダーギャップ指数がなぜこんなに低いのか

  • まず、ジェンダーギャップ指数には、暴力に関することは含まれていないことは伝えておきたい。なぜなら国際的に比較ができるデータがないから。
  • 日本の指数は、2021年は120位(156か国中)だが、2006年は80位(115か国中)、2012年には101位(135か国中)だった。
  • 日本の順位が低い主な理由は、女性管理職が少ないこと、男女間の賃金格差、女性議員が少ないことの3つ。
  • 世界では起こっている変化が日本では起こっていない、ということが大きい。

3.経済参加と政治参加

  • 日本では第一子が生まれる際に約6割の女性が仕事をやめ、子どもが成長してからパート等で仕事をする。M字カーブといわれる現象。スウェーデンやフランス、ドイツにはない。
  • 各分野の意思決定、指導的分野に占める女性の割合について、女性の裁判官や弁護士が2割程度という国はいわゆる「先進国」では珍しい。これらは、教育分野におけるジェンダーバイアスが影響しているともいえる。
出典:男女共同参画白書(https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r01/zentai/index.html
  • さらに、女性国会議員の少なさが影響している。(193か国中166位)
  • 女性国会議員比率は世界平均は25%で、2000年(13%)から倍増している。世界は変わっているのに日本は変わらない。この辺りが日本の順位が上がらない大きな理由。
  • 一方で、日本の地方議会には女性議員比率50%を達成している議会もある。神奈川県大磯町では子育て支援充実などの変化が起きている。ストーカー規制法やDV防止法などは当時の女性国会議員が党を越えて力をあわせて実現したという歴史もある。
  • 現在、129か国でクオータ制※1が導入されている。日本では導入されていないし、議論もされていない。
  • 「女性であれ、男性であれ、能力がある人がやることが望ましい」という言葉は、一見、説得力があるが、よく考える必要がある。現在、選ばれている議員は、本当に能力がある人なのだろうか?
  • こうした言葉の裏には、「女性にできるのか?」というジェンダー不平等意識があるのでは?
  • 2018年5月に「政治分野における男女共同参画推進法」ができたが、強制力がない法律にとどまっているし、前回選挙では与党が全く実践しなかった。法律を実施するためには、私たちの意識も大切。
  • さらに時代は男女半々(パリテ法※2)に向かっている。フランスでのクオータ制への違憲判決がきっかけ。男女平等がフランス憲法できめられているなら、クオータ制は違憲ではないかということが提起され、民主主義のあるべき姿としてパリテ法ができた。フランス以降、ベルギー、スペイン他7か国で導入。
  • カナダのトルドー首相が2015年の首相就任時に閣僚を男女同数にしたときにその理由を質問されて「Because it‘s 2015」と答えた。日本の「Because it’s 2021」は何だろう?
※1 クオータ制:人種や性別、宗教などを基準に、一定の比率で人数を割り当てる制度。政治における男女共同参画を実現するための代表的な仕組みの一つで、議員の一定割合を女性に優先的に割り当てる制度として、ヨーロッパをはじめ、アジアやアフリカなどの開発途上国でも積極的に導入されている。
※2 パリテ法:男女平等(同数)の政治参画を規定しているフランスの法律。選挙の候補者を男女同数にすること、候補者名簿を男女交互に記載することなどを政党に義務付けている。2000年6月制定。

4.社会にあふれるイメージから考える

  • ここから様々なポスターや広告が取り上げられ、ジェンダーに関してどのようなメッセージが発せられているのかを検証しました。
  • 作る側のジェンダーに対する固定観念、偏見がはっきりと表れていました。
①平成27年度京都府警察官募集のポスター「ぼく、京都のおまわりさんになるねん」「あのとき、とじこめた気持ちをもう一度信じてみようと思う」

男の子がおまわりさんの帽子をかぶり、敬礼をしている横で、男の子の袖をつかみ憧憬の眼差しで男の子を見る少女の図。
  • 横に立っている少女の役割は?
  • 警察官に関するどのようなイメージを作り上げている?
  • そのことの問題は?
どのような議論があったのかはわからないが、2年後のポスターは、より男女平等なメッセージに変わっている。ポスターを比べていただき、受け取るメッセージが異なることに気づいていただきたい。


1人の俳優が4つの職業のスタイルで前を向く写真
ジョージアのウェブサイトのタイトル
「ジョージアは知っている。働く男たちが額に汗して自分の持ち場を守っている姿を。そんな男たちの仕事が集まって世界ができていることを」
  • ホント?
  • それぞれの職場に女性は?
  • ワイシャツや作業服を洗濯しているのは?
  • 食事を作っているのは?
  • 子どもの世話は誰が?
2018年になると、3人のうち一人は女性になる。
2020年は、男性と女性が半々になる。オリパラ憲章の効果があったように感じる。
このように、広告によって発信するメッセージが大きく異なる。


A. 男性自衛官が人を救助している様子を見つめる女性「がんばる、あなたへ」

B.「今どきの萌える就職先」というタイトルで、アニメのキャラがついているポスター
→女性自衛官募集なのか、男性自衛官へのアピールなのか?
→「萌える就職先」とは仕事をする場所なのか?

C.「守りたいものを守れる人に」というタイトルで、超ミニの制服姿の女性自衛官のイラスト
→何を言いたいのかわからない。自衛隊は女性隊員をどんな存在と考えているのだろう? これはさすがに、炎上した。

④女性の身体を性的な対象物としてみるポスター紹介。
  • 三重県志摩市の「元」公認萌えキャラ「碧志摩メグ」に対しては、海女さんたちを含めて、批判、炎上の嵐。
  • 公認萌えキャラは取り下げたが、元公認萌えキャラとして残っている。
  • 地方自治体のキャラクター設定や、このようなポスターを作成することについて、チェック機能が適切に働いていないのは大きな問題。

5.コロナ禍のジェンダー状況

コロナ禍は女性への影響が大きかった。
  • 経済的打撃と苦境:非正規労働者の7割が女性、性的搾取の対象にもなる。
  • コロナ禍の影響を受けた飲食業や宿泊業は女性が多い業種。雇用者数の減少は女性が男性の倍。
  • ケアワークの過度な負担:無償労働はもともと女性に大きく偏っている中で、テレワークや一斉休校措置のため、女性の負担が一層、増えている。
  • 「シャドウパンデミック」:ジェンダーに基づく暴力の増加と深刻化。
  • 性と生殖に関する健康と権利:中高生からの妊娠に関する相談急増。
  • 女性自殺者の急増:20代と40代では前年比2倍に。

6.変革のために必要なこと

  • 法律ができ、制度ができても、なかなか現実が変わらない。
  • その背景には「有害な慣習、意識、固定観念」がある。意識に働きかけないと社会は変わらない。
  • 国連女性差別撤廃委員会でも、改めて強調されるようになっている世界的な課題。
  • イギリスでは固定観念を助⻑する広告が禁止された:「固定観念が反映された広告は個人の可能性を狭める」
  • コンフィデンス・ギャップへの対応:ロールモデルの不在。前に出ない・意見を言わない・後ろで支える女性。
  • あるアメリカの研究によると、昇進のオファーがあった時に男性は7割の自信で引き受けるが、女性は100%の自信がないと引き受けない。これがコンフィデンス・ギャップ。その存在を認識し、対応する必要。
  • 変革の先にある世界とは?
  • パンデミック対策に成功した国の多くは女性がトップである。
  • 経済危機の克服は女性のリーダーシップが欠かせない(クリスティーヌ・ラガルドさん)。

7.最後に:SDGs学習のつくり方

  • SDGs学習に関しても、コンフィデンス・ギャップの存在を認識し対応することが必要。
  • 女性が「リーダーにならない決断をする意識」に目を向けるような学習の工夫。
  • ジェンダー視点は社会全体を変える力がある。
  • ジェンダー平等は、女性、男性、全ての人の幸福につながる。

ディスカッション


以下の2点をグループで話し合いました。
  1. 「印象に残ったこと・疑問に思ったこと」
  2. 「ジェンダー平等社会に向けて最も障壁となっていることは何か」
グループディスカッションでは、職場の制度や職場や家庭での意識、自分自身の無意識など、活発に議論がされたようです。全体共有では、疑問やコメントが共有されました。

😮質問:ルワンダなどでは、50%以上の議員が女性であるが、個人の意識の違いや社会の変革があったのか?

応答:1994年に発生した内戦終了後に導入されたクオータ制の効果が大きい。制度を変えることにより、具体的な効果を生み出し、意識を変えていくという方向が目指されていると思う。日本において女性議員が増えない理由について、国会と地方議会、都市部と地方では状況も異なり一言で言うのは難しいが、小選挙区制は女性やマイノリティにとって不利な選挙制度だと思う

👫質問:今日の話は、男性女性の二つの性での話が多かったが、それ以外の性はSDGsでどう捉えているのか?

応答SDGsの弱点の一つ。LGBTQIやSOGIの課題は明示的には扱われていない。性的マイノリティが刑事罰の対象になる国も存在し、国連での合意形成が困難であるテーマであることが理由。だが、具体的な実践の場では、「二分化できない性」の課題への対応が進んできている側面もある。

😳コメント:たくさんのバイアスに気づいていない。気づいたときと気づいていないときのギャップが大きい。

応答:バイアスに気づくことは大切。バイアスを問い直す視点を持つことが大事だし、世界の変化を知ることによりバイアスに気づくことができる場合もあると思う。ふつうを疑うことが大事。現在、生涯未婚率は男性の方が高い。一人の男性が両親の介護をするという未来は目の前だと思う。介護離職は女性、男性を問わず、本人、社会、経済にとってデメリット。ジェンダー平等、そしてケアワークの重要性の認識と平等な分担が大切。

😀コメント:ジェンダーの壁が無く、自分らしく生きられるのは男性にとってもいいことだという意識が大事。

応答:全く同感。男子に対するいじめの多くは、性的暴力だと感じている。ジェンダーに基づく女性に対する暴力という課題への理解が拡がるようになり、男性への性的暴力も表に出てくるようになった。聖職者による少年への性的暴力や軍隊における捕虜を含む男性への性的暴力が明らかになったことの意味は大きい。暴力との関係を含めた男性性の問い直しが必要だと思う。ケアワークの平等な分担を通じたワークライフバランスは女性、男性、すべての人の幸福につながるはず


受講生の感想 (アンケートより抜粋)

  • 私たちは誰ひとりとしてジェンダーフリーの世界に生きていない、だからこそ、自分の中にあるジェンダーバイアスを認識することが大事…勉強になりました。
  • 自分にバイアスがかかりすぎているためか、どこが問題であるのか、なぜか、そのバイアスをとるにはどうしたらいいのかと…これまでの回での「無知」とは違うわからなさ、疑問が生じたように思う。
  • ジェンダーの問題は、実はとても多面的であること、またジェンダーの視点は社会全体を変える力があるということを改めて考えました。
  • バイアスがあちこちにある環境、これまで経験する機会を奪われてきた歴史、自分の社会の外からの視点、生活レベルでの意識や慣習をどう変えていくかモヤモヤしました。

感想

日々感じるジェンダーに関するモヤモヤは尽きず、いつもより受講生が積極的に発言していると感じました。一方、人によっては、このテーマをあまり考えたことがなかった方もいたと思います。

社会の構造として作られてしまっているジェンダー不平等から、自分の中に内在化されてしまっている部分にも目を向けること、それを周りと話していくことは重要だと思いました。

ジェンダー平等はすべての人を幸せにすること、そして民主主義を強くすることという言葉が印象に残りました。だとすると、世界の変化についていけない日本の状況はより深刻で、なによりジェンダー平等のための教育は待ったなしで取り組む必要があると感じました。
(報告:中村)

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