成人学習・教育の推進に向けて~ASPBAEアドボカシー・ワークショップへの参加報告

DEARでは成人学習・教育(Adult Learning and Education(ALE))プロジェクトを本年度より開始しています(地球環境基金助成事業)。

プロジェクトでは、成人教育への理解を少しでも広めるため、また、2022年に開催される第7回国際成人教育会議(CONFINTEAⅦ/コンフィンティア)に向けて、関心をもっていただくため、ブログを通じてALEプロジェクトの動向をご案内していきたいと思います。なお、CONFINTEAⅦに向けた成人教育の歴史や背景については、10月号の会報に掲載予定です。

もくじ

  1. 成人教育とASPBAEアドボカシー・ワークショップ
  2. 1日目:成人学習・教育は社会を動かす原動力に
  3. 2日目:成人学習・教育を「見える化」し政府を動かす
  4. 国際成人教育会議(CONFINTEAⅦ)に向けて
  5. 最後に:アジアの仲間たちに触発される!

1.成人教育とASPBAEアドボカシー・ワークショップ

成人教育は、世界でもまだまだ主流化からは遠いのが現状で、国の政策や予算は学校教育に比べ微々たるものとなっています。

しかし、大人が学ばなければ社会は変わらないのは明らかなので、市民社会ではICAE(イカエ)などの団体が積極的にアドボカシーやネットワークづくりをおこなっています。その中で、DEARも会員であるASPBAE(アスベ)という団体は、アジア太平洋地域における基礎教育・成人教育のネットワーク団体で、政策提言などを積極的に行っています。

今回は、8月25~26日の2日間にわたってASPBAEが開催した、成人教育に関するアドボカシー・ワークショップ(DEARからは近藤副代表理事、三宅理事、中村事務局長、伊藤職員、が参加)の概要をピックアップしてお伝えします。

ASPBAEの現地事務所があるフィリピンのマニラをベースに、東アジア、東南アジア・太平洋地域、南アジア、中央アジアなどから、成人教育の実践者約60名がオンラインで参加しました。今回の目的は、参加者どうしの経験共有、周縁化されたコミュニティやコロナ禍での成人教育、変革のための成人教育や制度への理解、CONFINTEAⅦについて、GRALE(モニタリングと評価)のためのガイダンス、成人教育アドボカシーとSDGs(自発的国家レビューに視点を反映させるため)、として実施されました。


2.1日目:成人学習・教育は社会を動かす原動力に

気候変動、COVID-19、オンラインによる分断、格差、ジェンダー平等などに係り、あらゆる問題がある中で、成人教育は自己決定を助け、これらの問題を解消し、公正もたらす役割がある一方で、人員や資金不足などが課題となっています。

現状として、公民館やコミュニティーラーニングセンターなどの一部は活発なものの、多くの国々の成人教育への予算は国内教育支出の1%未満となっています。このような状況を受けて、ASPBAEからは、生涯学習のシステムに戦略的に働きかけを(アドボカシー)していく必要性が、全体に共有されました。

Transformative Adult Learning and Education (TALE)という考え方

TALEとは

まず、TALEという考え方が紹介されました。以下、発表とスライドの内容を紹介します。

誰もが教育を受ける権利があり、生涯のほとんどの期間は、成人です。また、多くの意思決定は大人によってされますが、急速に変わる世の中において、上記のような問題に立ち向かっていくためには、大人が継続的に学習していく(または学び直していく)必要があります。その意味で、ALEを進めていくことは、社会を動かす原動力になると言えます。

ALEの形は多様で直線的ではありません。読み書きや計算能力、技術職業的スキルといった実用的なものから、批判的思考や表現力など、生活の中で行われる様々な学習を含みます。

あらゆるスキルを身につけることで、個人の成長と尊厳形成に貢献することから、ALEそのものが自らの「変革(transformation)」に関わるものとして考えられます。ということで、Transformative Adult Learning and Education、つまりTALEということになります。

TALEが目指すこと

TALEが目指すことは、権利ベースであること、ジェンダー平等であること、協働的であること、文脈に影響され変化すること、現実を読み解き歴史を綴ること、私たちの未来と教育の未来を切り拓ことにあります。

それらを具体的にアジア太平洋地域の文脈に当てはまると、以下のような活動の促進にあたると言えます:
  • 成人の識字
  • SDG4.7の推進
  • 人種差別やアイデンティティーに基づく差別に対する教育
  • 若者の参加とエンパワーメント
  • 周縁化されている女性のディーセント・ワークのためのスキル
  • 先住民の自己決定を追求するための先住民の知識
  • 障害者インクルーシブ教育
  • 気候変動に関する教育
  • デジタルディバイドの解消

ジェンダー公正な成人教育をGender-just skill education

次にジェンダー公正な成人教育について紹介されました(ここではGender-justをジェンダー公正としています)。

COVID-19は過去20年間の女性の人権に関わる成果を覆し、状況を悪化させていると言えます。パンデミックの影響を最も受けているのは女性と子どもですが、多くの国では復興策の一部になっていないのが現状です。公正な教育を受け、働きがいのある仕事(ディーセントワーク)につくことは、社会から周縁化された女性にとって、ジェンダーに配慮した、復興への最も重要な道筋となってきます。

SDG4におけるALEに関してですが、ボランタリー・ナショナル・レポート(Voluntary National Report)にはALEの記述はありませんが、識字、ノンフォーマル教育、職業・技能訓練、意識向上プログラム、生涯学習について言及しています。識字能力は、SDGsとは関係なく、「単独の」スキルと認識されています。ほとんどの国では、女性のエンパワーメントのための独立したプログラムはなく、スキル開発プログラムにジェンダーの問題を統合する努力もしていないのが現状です。

ジェンダー公正スキル教育と権利保障に向けて必要なこととして、以下が挙げられました。
  • ジェンダー公正スキル教育に対する権利
  • 資料・情報へのアクセス、リプロダクティブ&ケアエコノミー以外の女性の役割をコミュニティが認識すること、家事・介護の分担
  • ジェンダー公正スキル教育における権利
  • 変革的な職業訓練スキル、ディーセントワーク、尊厳
  • ジェンダー公正スキル教育を通じた権利
  • 質の高い公共サービス、社会保障-出産手当被災者のための安全な家
現状を改善していくためには、市民によるSDGsに関するデータ、周縁化された人々の声を可能にするデータ、SDGsを地域の活動に定着させるための社会的説明責任とモニタリングが必要となってきます。それにより、政府は、最も必要あることが実証された場合には、政策を推進することができます。

1日目を終えて、改めて成人教育の意味や可能性を強く感じました。
成人が社会の課題を捉え、学び、学び直し、よりよい社会の意思決定に参加していくことが、社会変革につながるという意味で、TALEの重要性を知りました。アジア太平洋地域の仲間と共に、生涯学習システムや国の教育政策、社会政策に戦略的に取り組むために、具体的にできることを考えていきたいと思います。

3.2日目:成人学習・教育を「見える化」し政府を動かす

まずは、ALEを確立していくための提案が行われました。

ALEを確立していくには

ALEのアドボカシーをすすめていくうえで、生涯学習というより大きなスパンとシステムの中で、ALEを確立していくことが大事になります。そこで必要になってくるのが政府のキャパシティ・ビルディングです。各地域での実践を元に、進め方として以下が提案されました。
  1. 入り口として:誰が関係するのか、誰が積極的なのか、誰が味方なのか、確認する
  2. ALEとの関連性:コンセプトの理解、予算の役割、生涯学習システムにおけるALEの役割への理解を促す
  3. ALEを見える化する
  4. ALEの推進団体を巻き込む
  5. 政府を輝かせる方策をとる
  6. 実用的なキャパビルを

ALEを見える化するための制度

続いて、個人が得た知識、技能、能力を可視化していくための実践として、認証(Recognition)・検証(Validation)・認定(Accreditation)の3つの要素について、これらを一連のものとした、「RVA」として紹介されました。
  • 認識(Recognition):学習成果やコンピテンシーに公的な地位を与え、その価値を社会的に認知させるプロセス。
  • 妥当性の確認(Validation):個人が習得した学習成果やコンピテンシーが、あらかじめ定義された方法論を用いて基準点に照らして評価されたことを、公的に承認された機関が確認すること。
  • 認定(Accreditation)。公式に承認された機関が、学習成果やコンピテンシーの評価に基づいて、賞(例:証明書、卒業証書、称号)の授与、同等性の付与、単位の付与、免除、文書(例:コンピテンシーポートフォリオ)の発行などにより、教育を認定するプロセスのこと。

ALE見える化の事例:ドイツの取り組み

RVAの事例としてドイツの実践が紹介されました。ドイツでは、学校教育や職業訓練教育(実地と学校の組み合わせ)が充実しており、インフォーマル教育の必要性はそこまで意識されてきませんでしたが、EUの政策動向、加速する仕事の世界の変化、要求される能力の変化、生涯学習の必要性、ノンフォーマル+インフォーマルな学習の重要性の高まり、ノンフォーマル/インフォーマルな学習成果を認識/評価する必要性などが高まっています。

しかし、実際に進めていくとなると、既存のフォーマル教育の枠組みが強固ゆえ、柔軟に対応するのが難しく、一部のステークホルダーからの反対・抵抗があったり、教育セクターごとに状況やガバナンス構造が異なるため、包括的なシステムを構築することは、これまで困難を極めてきました。そこで現在では、一つのまとまったシステムではなく、領域ごとに異なるアプローチで進める形をとっています。

具体的な例として:ProfilPass 

その一つの例として、ProfilPassというものが紹介されました。これは、体系的なコンピテンシー評価のためのツールで、人生の中でどのような能力を身につけたかなど、経歴に焦点を当て、自己反省、自己開発、エンパワーメントを支援することを目的にしています。

Recognition, Validation and Assessment in Germany – The example of the ProfilPass
Susanne Lattke, 26 August 2021のスライドより

例えば、あなたは人生で何をしてきましたか? そこから何を学びましたか?といったことが聞かれます。まずは出来事などを特定し、それについて記述し、抽出し、評価していきます。これはオンラインでも入手でき、個人で取り組んでも、全国にいるカウンセラーに相談することもできます。また、特定のグループのニーズに合わせてさらに開発されており、非母語話者/新移民を対象とした簡略版、認知障害のある方向け、自営業者向けなども準備されています。

これらのツールは、エンパワーメントに重点を置き、正式な承認はあまり、あるいは全く必要ないものになります。ポートフォリオは、それ自体が正式な資格につながるわけではありませんが、正式な制度における認定手続きの中で、他の文書と同様に証拠として使用することができます。

4.国際成人教育会議(CONFINTEAⅦ)への道のり

2日目の最後は、2022年にモロッコで開催される、CONFINTEAⅦの目的と、市民団体がやるべきことが共有されました。

Challenges for CSO engagement: CONFINTEAⅦ (2022) Jose Roberto "Robbie" Guevaraのスライドより

CONFINTEAⅦでは、ALEの方針を決定し、新しい行動枠組みを決め、加盟国が政策を導入することを奨励することにあります。そして、CONFINTEAⅦの前段階として、地域ごとに開催される地域準備会合の役割としては、各地域の成人学習・教育に関する現在の重要課題を特定すること(成果文書は、CONFINTEA VIIで採択される行動枠組みの草案に使用されます)、そして、地域に根ざした視点を提供することにあります(アジア太平洋地域準備会合は9月22日に行われました)。そのため、地域準備会合を最適化していく必ことが重要となってきます。

ALEを推進していくうえでは、CONFINTEAⅦのモニタリングに止まらず、さらなる意欲の喚起していく必要がありますが、CONFINTEAⅦは大きなポイントとなり、会合に向けた流れを作っていく必要があります。

5.最後に:アジアの仲間たちに触発される!

2日間のワークショップということで、グループに分かれて、各国のALEの展開などが共有する場面もあり、背景やおかれている地域の状況により、実践はかなり異なりますが、ALEのアジアでの潮流や意識の高さに触れる機会となりました。

これまで、教育の分野の一つくらいに認識していた、ALEの重要性を理解し、熱心に活動するアジアの仲間たちに触発される機会になりました。

ALEの日本での促進をしていくため、ブログだけでなく、本会議の内容をふくめ、今後の行われていく、アジア太平洋地域準備会合やCONFINTEAⅦ(本会合)をまとめた報告書の発行を予定しております。また改めてご案内します。(報告:伊藤)

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