開発教育ファシリテーション講座2022 第4回「ファシリテーションにおける『問い』を考える」

こんにちは!開発教育ファシリテーション講座修了生の藤波祐子(ゆーこ)です。 

11月13日(日)に「開発教育ファシリテーション講座2022」 第4回が開催されました。 

本講座も中盤に入り、『開発教育ファシリの13人』の光る個性が垣間見られるようになりました。第4回目のテーマは「ファシリテーションにおける『問い』を考える」ということで、「問いづくり」についてじっくり考えました

そこからみえてきたのは、ファシリテーションにおける自分のクセや、思考の枠組みや価値観など、普段意識していない「自分」についても改めて気づくWSとなりました。 

もくじ 

  1. 前回のふりかえり
  2. アイスブレイク
  3. 新聞記事をつかった問いづくり
  4. 「開いた問い」と「閉じた問い」
  5. レクチャー
  6. 次回の予告

1.前回のふりかえり

まずは前回のふりかえりで改めてこれまで学んできたことを整理しました。
  • 開発は合意形成の積み重ね、合意形成の質、どういう合意形成がなされたかが重要。
  • 合意形成はリーダーのみで行うものではなく、構成員一人ひとりがファシリテーションを行い、全員が参加してお互いの役割を果たし、何が起こっているのか状況を捉える必要がある。
  • そのためには自分の捉え方の枠組みや、自分のファシリテーションのクセを知っておくことが大切。
こうしたことを踏まえて、今回は「問い」を作ることを通じて自分の「価値観」や「思考の枠組み」に気付いていくためのワークに入ります。

2.アイスブレイク~「おいしい食べ物」

そのまえに、、アイスブレイク。
今週のお題は食欲の秋らしく「この一週間で食べた美味しいもの!オススメのもの!😋」でした。

ブレイクアウトルームでは、練習も兼ねて初めてJamboard(デジタル・ホワイトボード)を使って進めました。参加者は全国津々浦々に点在するため、同じ日本でも、季節は異なり、それぞれが異なる旬の美味しいものを味わっていることをあらためて実感しました。

ちなみに、私は、終戦後ハルビンから引揚げてきた祖父母が創業し、3代目の友人が受け継いでいる創業65年のロシア料理店「スンガリー」(松花江)で味わった『ボルシチ』でした。(詳細はおまけ話で…)
さて、いよいよ本題です。

3.新聞記事からの問いづくり

今回のテーマは「問い」。
次のことを意識しながら新聞記事を読み、「問い作り」について考えます。考えるポイントは、、、
  • 思いや考えを引き出す「問い」づくりについて考える。
  • ひとつの事象について様々な角度から「問い」を考える。
  • 問いを作ることで、自分の価値観を問い直す。

まずは、上記の新聞記事を読み、各自で「問い」を3つ作ります。5W1Hを意識しながら、いろんなタイプの質問を作成します。


つぎに、ブレイクアウトルームでグループに分かれ、Jamboardを使いながら、問いを出し合い、出てきた問いを吟味しながら、「なにについての問い」なのかを考え、「コンパス分析」に基づいて分類していきました。

「コンパス分析」とは、開発問題を見る際に必要な4つの観点のことで、まさに東西南北を示す方位磁針のように、NESWの視点で課題を分析していきます。『コンパス分析』の4つの観点

N:Nature 自然・環境・エネルギー
E:Economy 経済(お金の流れ、援助、購買、貿易)
S:Social 社会 (関わる人、関係性、伝統や監修、文化、暮し方、生活感や価値観)
W:Who decide? 意思決定・政治

次に、作成した問いがこの4つのどの観点に関わるのかを分類していきました。
S(社会)や、E(経済)など、特定の項目に集中したり、なぜかN(自然)が少なかったり、2つの項目のどちらに入るのか迷うものもありました。その場合には、中間に置いてみました。

こうして分類作業をしてみると、自分の関心事や、注目のクセに改めて気づきます。同じ記事を読んでも、個々人の着眼点、視座、問題意識というのはじつに様々で、同時に、自分の価値観やクセ、視点に気づく機会ともなりました。

4.「開いた問い」と「閉じた問い」

休憩をはさんで、次のワークは、「開いた問い」と「閉じた問い」です。

このワークでは、「問い」を投げかける時、どういう問いかけをすると、どういう展開になっていくかを意識的にみていきます。「問い」を吟味し、問いの作成方法を意識しながら、「話し合いを促す問い」、「考えを深める問い」を検討しながら、「よい問い(質問)ってどういうものか」について考えました。

「問いかけ(質問)」の方法には2つのタイプがあります。
「閉じた問い」と「開いた問い」です。
  1. 「閉じた問い」というのは、「はい」「いいえ」、Yes/Noで答えられるもの。いつ、だれがなども入ります。
  2. 「開いた問い」というのは、「~はどうですか?」「どう思いますか?」など、答えるのに具体的な説明を必要とするもの。
このワークでは、まずは2人のペアになり、4つの質問に関して、次の検討作業を行いました。
  1. 「開いた問い」か「閉じた問い」かを確認
  2. 「開いた問い」⇒「閉じた問い」に変換
  3. 「閉じた問い」⇒「開いた問い」に変換
次に、2人ペアx2組の4人グループで、「テーマ/内容を深めるうえで良い質問」を2つ選び、その理由を考えました。

こうして、「問い」を開⇒閉、閉⇒開と変換していくなかで、気づいたのは、ファシリテーターは常に話の真のテーマを理解し、質問の意図、何を聞きたいのか、狙いはなにかを明確に認識しつつ問いを作ることがいかに重要であるかを感じました。

例えば、私がいたグループでは、開いた問い⇒閉じた問いに変換する課程で、その真意や、課題の本質を考え、より具体的な単語を使うことで、より明確にしていきました。その際の開いた問い⇒閉じた問いへの変換プロセスはこんな感じでした。

(事例)「開いた問い」⇒「閉じた問い」への変換プロセス

開いた問い:「”人権”に配慮するサプライチェーンづくりってなんですか?」
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つまりは、「サプライチェーンで人権配慮のための施策が具体的に採られているか否かの問題」ということ?
👇
そういう施策の具体的なシステムは? 
👇
苦情を吸い上げる「グリーバンスメカニズム」(苦情処理制度)
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 閉じた問い:「サプライチェーンづくりに、グリーバンスメカニズムは導入されていますか?」

5.レクチャー

「よい問いって?」ということをワークを体験して考えてきた3時間を経てからのレクチャーは、もやもやしていたことが言語化され、腹落ちすることばかりでした。

個人的には「価値を”揺さぶる”ファシリテーション」という言葉が一番刺さりました。無意識のうちに前提としていた枠組みを揺さぶり、前提としてた「当たり前」を揺さぶり、自分の考え方や考え方のクセ、どうしてそういう考え方を持っているのかに気づくことが第一歩であり、自分を問うことが学びを進めるということであることを、今回のワークでの体験を通じてまさに実感しました。

最後に、ご紹介くださったサイモン・フィッシャー&デイヴィッド・ヒックスの言葉を備忘のためにも引用させていただきたいと思います。

このような問いかけは、こどもたちに
「学び方を学ぶ力」
「問題を解決する力」
「自分の価値観を自覚する力」

『ワールド・スタディーズ』は残念ながら廃版になっています

6.ふりかえり

新聞記事を扱った「コンパス分析」、「開いた問い⇔閉じた問い」の2つのワークを通じて、自分がどういう観点からみるクセがあるのか、どういう視点から見ているのか、どういう前提から話をする傾向があるのか、など、今回は改めて自分の思考のクセ、見方、問い方、ひいては自分自身を改めて見つめ直す機会となりました。

また、開いた問い、閉じた問い、を考えることによって問いを吟味し、自分が投げかけようとしている問いの本質、核心は何かということを改めて考え、深められることを学びました。答えを求めるための問いではなく、対話を促す問いを意識的に作ること。普段いかになんとなく漠然とした問いをつくっていたかも痛感し、今後は質問を吟味しながら、ポイントを定めた問いを作ることが大切と感じたかたも多かったようです。

ファシリテーターはテーマの核心を理解しつつ、俯瞰して自分自身の問いかけや発言、非言語の部分も含めたコミュニケーションや場に与える影響など、常に自分自身を客観的に見ることが重要であり、それと同時に感情面でもやり過ごさず、意識的に対話をすることが大事であることを実感しました。

「自分を問うことが学びを進める」ということを学んだ3時間でした。

★おまけのお話 ~ パブロフの『ボルシチ』

アイスブレークでご紹介したロシア料理店スンガリーの『ボルシチ』ですが、この友人の祖父母(加藤登紀子さんのご両親)は、第二次世界大戦中、ロシア圏からの避難民が多かった満州ハルビンに住み、引揚げ後、そこで味わった豊かな食文化を伝えるとともに、日本にいたロシア系の人を助けるために1957年に創業した今年65周年のお店です。

『料理に国境無し』という創業者の想いを受け継ぐ女性経営者の友人は、コロナ禍も、今年のウクライナ侵攻以降もずっとロシア系、ウクライナ系の従業員を雇い続けており、そんないろんな人の人生や想いが詰まったボルシチです。

ボルシチのイメージ(スンガリーのボルシチではありません)

ロシア料理の代表のボルシチも、実はウクライナ発祥で、このお店ではずっとロシア・ウクライナ・ジョージアのお料理を出しています。今年7月ユネスコは「ボルシチの料理文化」を「緊急保護が必要な無形文化遺産」に指定したそうですが、まさに料理文化に国境はありません。

折しも、この日の講座で、問いの方法を吟味するワークをしている際、なんだかファリシテーションを学ぶことは料理を学ぶことに似ているとふと感じました。いかに素材を吟味し、素材の味を引き出し、タイミングよく、塩梅よく組み合わせ、心もお腹も満たすおいしいお料理を作るかということはファシリテーションにも応用できるのではないかと。。

『鎌倉殿』の時代から800年超、世界大戦から80年超経つ2022年にも起こる戦争。平和は、ファシリテーション=対話からはじまるはずということを『ボルシチ』を食べる度にパブロフの犬のように思い出しそうです。
(報告:藤波祐子)

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