アジアとヨーロッパの先生向けに気候変動のワークショップを実施しました

アジアとヨーロッパの中高の教員を対象に、ESDと気候変動をテーマにしたワークショップをオンラインで2回実施しました。1日目は伊藤が、2日目は中村が担当しました。

アジアヨーロッパ財団(ASEF)では、アジアとヨーロッパの多様な国と地域が参加する、School Collaborationというものを実施しており、講義やワークショップ、意見交換などを通じて現場の実践に活かすことを目的としています。

DEARでは、2019年にASEF参加者の教員向けの対面ワークショップを実施しましたが、今回はオンラインでの実施となりました。

気候変動への警鐘や対策のための教育は、国際的にも重要な位置づけとなっており、まったなしの状況です。しかしそれを、教室でどう扱うかに悩みがあるのは、各国共通のようです。

今回は、こちらのリソースを紹介・体験することがメインではあったものの、限られた時間ではありましたが、自身が持続可能な開発や気候変動に対してどう感じているか、リソースをどう実践で活かせそうかといったことを伺う中で、私自身も多くのヒントをもらえました。

合計2日にわたるワークショップの概要と展開をここではご紹介します。

1日目

教育実践にESDと気候変動教育を取り込むための方法論(Methodology for Integrating ESD and CCE in Teaching Practices)ということで、ワークショップ形式で行いました。

1)どこから参加していますか?

チャットに書いてもらったところ・・・

クロアチア、ルーマニア、ブルネイ、ルクセンブルク、アイルランド、インドネシア、フィリピン、マルタ、スロベニア、マレーシア(チャットの投稿順)と様々でした。

方法はメッセージという前提を共有し、ESDは「経済、生態系、そしてすべてのコミュニティの公平な発展の長期的な未来を考慮した意思決定を行うための学習プロセスである」ESD training guidelines/unesco.org)ということから、これを参加型で体験する展開でワークショップを実施しました。

2)コンパス分析

アクティビティとして、気候変動に関連する写真を元に、コンパス分析*を実施。それぞれの写真について、コメントや疑問を挙げもらいました。いくつかを抜粋して紹介します。
*コンパス分析については「豊かさと開発」(DEAR, 2016)でご紹介しています

写真をみてコンパス分析

Aの写真について

W:権威だけの問題なのか、どのように一般の人々が貢献できるのか
S:人間活動による災害、アクセス可能性の減少
E:復旧にどれぐらいのお金がかかるのか
N:洪水は気候変動が原因
(W:意思決定、S:社会、E:経済、N:環境など)


他の写真からは、以下のようなコメントが挙げられました。

W:消費者の選択と購買力、規制の必要性
S:搾取、土地固有の人々や植物はもういないだろう
E:巨大企業、労働環境、行き過ぎた大量生産と消費
N:生物多様性の無さ

3)参加者のWSへの感想など

  • コンパス分析は、グローバルな開発問題に対する人間中心の洞察を明らかにするものだった。
  • この次元のアプローチは、学生に考えさせ、サステナビリティのコンピテンシー、特にシステムシンキングのコンピテンシーを構築するのに役立つと分かった。
  • 会話を始め、クリティカルシンキングを始めるための良いストラテジーを学んだ。自分のカリキュラムに適用できるか、もっと考えてみたい。
  • 環境に関する問題を議論する際に、4つの要素をすべて考慮したことはなかったと思う。
  • 4つの次元を適用することで、生徒が議論に参加し、ブレインストーミングのアイデアをより体系的に分類することができる。
  • パーム油を含むチョコスプレッドを購入する必要があるかなど、問題への積極的な対応を促します。
  • このワークショップは、環境問題をどのように授業に取り入れたらよいかのヒントを与えてくれるものだと思います。参加できてよかったです。

二日目

より気候変動問題と気候変動教育に焦点を当ててワークショップを進めました。

アジアとヨーロッパの中学・高校の先生たちと

1)あなたにとって、気候変動への対策は?

気候変動対策についてどのように参加者が認識しているか投票を行いました。

a. 私たちの生活の質に対する脅威である
b. 私たちの生活の質を向上させる機会である
c. 私たちの生活の質に影響を与えない
d. わからない/答えたくない

参考:気候・エネルギーに関する世界各国の見解
http://climateandenergy.wwviews.org/results/

結果、一番投票数が多かったのは、bの「私たちの生活の質を向上させる機会である」(71%)でした。

その理由は、「対策を取らないと益々、大変なことになる」、「対策を取ることで、安心して暮らせるようになる」等でした。

少数ですが、2番目に多かったaの「私たちの生活の質に対する脅威」(25%)を選んだ人は「長い目で見たら機会だが、最初は、対策により生活を変えるのはつらいかもしれない」という理由でした。

実は、この調査は、2015年に世界で行われたものですが、世界の人々の66%が、b「機会になる」を選んでいるのですが、日本だけでみると60%が、a「脅威になる」を選んでいるのです。このことから、気候変動の問題の緊急性や、対策の長期的な意味が日本には伝わっていないのでは、という危機感を強く感じ、参加者の皆さんにも同じ質問を投げてみました。

日本だけでみると60%が、a「脅威になる」を選んでいるのです…

2)気候変動とは

そもそも、気候変動問題は、ただの環境問題ではありません。

気候変動によってもたらされる食料問題、水不足、強制的な移住、災害などは、人々の生活の基盤を揺るがしていること、特に、現状はエネルギー問題が深刻さを増しており、紛争などにもつながっています。気候変動は、政治的、社会的に大きな問題であること、そしてそのような捉え方の重要性を改めて、説明と共に、確認しました。

気候変動問題は環境問題にとどまるものではありません

2)気候変動教育について

気候変動教育の5つのステップとして、開発教育のワークショップ実践の経験から、以下を紹介しました。

 ①事実を知る

 ②構造を理解する

  • 化石燃料が一番の問題 だから、エネルギーや経済の構造を変える必要がある。システムチェンジの必要性
  • 気候変動の影響は平等ではない
  • climate justice の考え方

 ③気持ちの共有、考え、話し合う

 ④変化のための行動を起こす

 ⑤行動を振り返る

気候変動教育の5つのステップ

4)気持ちのワークと共有

気候変動について考えるとどんな気持ちがするか、そして、気候変動について何を知りたい?考えたい?について共有しました。

私のグループでは、悲しい、心配している、次世代への懸念から、後悔などネガティブな感情が多かった一方で、指標などが国際的に提示されていることで行動が促されることが挙げられました。

また、このアクティビティについては、たいてい認識と行動にギャップがあるが、気持ちから入ることでそのギャップに気づくことができる、という話が挙げられました。

また、「生徒たちは、どのような気持ちなのか」と聞いたところ、「怒り、悲しみ、ジレンマ、無力感」などが挙げられました。そのような生徒たちの声はとても大切で、しっかり聴いていくとともに、危機感だけでなく可能性も共有していくことを話しました。

4)ワークショップを実施して 感想ふりかえり

先生たち自身が気候変動に対してかなりの危機感持っていること、そして、生徒や次世代には、問題の大変さだけでなく、皆で(collectiveに)取り組むことであること、また、子どもの当事者性や、望みを持てるようにしたい、という強い熱意が発言から感じられました。

今回のワークショップでは、リソース紹介の役割ではありましたが、アジアとヨーロッパという、異なる文化背景の実践者が集まることで、感じたことがいくつかありました。

それは、消費者としての情報の違いや、構造的な捉え方の違い、気候変動の影響の地域差や、影響の内容の違いがあることです。

例えば、マレーシアからは、気候変動の影響による洪水の影やその頻度の増加について、強い怒りとともに共有されました。また、クロアチアからは、政府の対策が遅すぎる、というイライラ感も共有されました。

このように、世界共通の喫緊の課題である気候変動を、世界各国の先生たちと考えられるのは貴重な機会でした。同時に影響の多い国からの深刻な訴えを受け止め、喫緊の対策を進めるための教育のあり方も考えていきたいと思いました。(報告:伊藤)

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