ボルネオ研修レポート・その1 開発の進むアブラヤシ(パーム油)プランテーションと小さな希望

こんにちは。スタッフの八木です。
1月9日(木)~14日(月)の日程で、マレーシア森林保全研修(環境省主催/地球・人間環境フォーラム運営)に参加してきました。

目的はもちろん、パーム油の原料となるアブラヤシのプランテーション開発の現状を見ること。そして、熱帯林や野生生物の現状と保全活動の視察を通して、生物多様性について学ぶことです。

パーム油は、多くの場合「植物油脂」と表示され、カップ麺やスナック菓子、チョコレートやアイスクリームなどの食品や、洗剤・石鹸などに使われています。日本に暮らす人は1年間に約5㎏は消費していると言われる身近な油です。‥ということは、教材『パーム油のはなし』(DEAR)をご利用くださっている方々には、周知の事実ですよね?

今回の訪問先は、マレーシアのボルネオ島(インドネシアではカリマンタン島)の北東に位置するサバ州。プランテーションや熱帯林の保全活動をしているNGOなどを訪問することができました。

まずは、なかなか入ることのできないプランテーションの内部の様子です。『パーム油のはなし』の、そのまんまです!

長い柄のついた鎌でアブラヤシの果房を収穫するインドネシア人労働者。
マレーシアの多くの農園では、現場労働者のほとんどがインドネシアなどからの移住労働者です。

上の写真の労働者が収穫したアブラヤシの果房。
1つ15㎏~20㎏もあるトゲトゲの果房が高い木の上から落ちてくる、危険が伴う作業です。

25年ほど経ったアブラヤシの木は強い除草剤(poison=毒と説明していました)を打って枯らす。土壌や河川への影響が気になる‥。

今回訪問した、ムランキン・プランテーションは8,800ヘクタール※もあり、農園のゲートからオフィスまで向かう車窓には、延々と、果てしないと感じるほど、アブラヤシだけの光景が続きます。こんなに広いのに「中規模」な農園と聞き、驚きました。
※8,800ha=88㎢。文京区の面積が約11㎢なので文京区8つ分くらいの広さ!

プランテーションの中にある搾油工場(mill factory)。すごい匂いがします(いい匂いではありません)。

ボルネオでは、1980年代頃からアブラヤシのプランテーション開発が進み、熱帯林(以下の写真の緑の部分)が急速に減少しています。

森林保全に取り組むNGO、KOPEL(コペル)のスタッフによる活動紹介。

今回の研修では、動物生態学者の安間繁樹先生が同行してくださったのですが、わたしは安間先生の解説を聞き、衝撃を受けました。

「緑色のところには、熱帯林が残っているように見えるでしょう。でも、その熱帯林も、もはや本来の森の構成ではありません。以前はフタバガキなどの巨木が占めていましたが、今は二次林ばかり。外来種も増えて、森の質が非常に劣化しています。もう、以前のような豊かな熱帯林はほとんどないのです」

残された森も劣化しているなんて‥!

サバ州の政府も無策ではなく、熱帯林の保全と生物多様性のための取り組みをしています。とはいえ、サバ州の野生生物局で伺ったお話も衝撃でした。

以下の地図をご覧ください。
左上の「Map1」は、1989年の野生生物保全エリアの目標地図です。白い部分はアブラヤシのプランテーション、緑が目標保全エリアです。この、緑の部分を増やそうというの目的なのですが‥

左上が1989年の保全目標、下が2008年の保全目標の地図なのですが…

その20年後、下の2008年の「Map3」に描かれた目標も全く同じ地図に見えます
研修参加者が思わず「え?これって、同じ地図ですよね?」と質問したほどです。つまり、この間、保全エリアは全く広がっていない(というか減っている)のです。この間、絶滅したり、絶滅の危機にある動物もたくさんいるそうです。

今回ご一緒した動物生態学者の安間繁樹先生は、サバ州の野生生物局でも働いていたことがあり、生物多様性が失われていく様をつぶさに見てこらたそうです。研修の後半、安間先生はこんなことを語ってくださいました。

「人間は悲しい生き物ですね。熱帯林は水を貯えて雨を降らし、空気もつくってくれる。マラリアの特効薬のキニーネが、アマゾンの森林から発見されたように、人間にたくさんの恩恵をもたらしてくれた。まだ発見されていない動物や植物もあるでしょう。多様な生物が暮らす熱帯林は、いわば豊かな『遺伝子プール』です。アブラヤシも大切かもしれないけれど、失うものもとても大きい。人間は自分で自分の首を絞めています。このツケは、孫の世代が被るでしょう」

アブラヤシのプランテーションからは、「パーム油」というお金が得られますが、それだけ(経済的価値だけ)ともいえます。

経済と環境保全を両立させることはできないのか…。
減少し、劣化し続ける豊かな熱帯林の現状を目の当たりにすることになり、絶望的な気持ちになりつつも「小さな希望」を感じることもできました。その「小さな希望」については、レポート2でお伝えします。(報告:八木)

研修参加者と。左から2番目が安間先生、右端が八木です。
伝統的なロングハウス・スタイルのロッジに泊りました。

1泊だけでしたが、ホームステイもしました。ホストファミリーの17歳(高校生)はk-popが大好き。おいしいご飯をありがとう!
                            

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