韓国研修レポート(1)声を上げてきた韓国の市民社会と教育の変化

こんにちは。DEARスタッフの岩岡です。
2月8日~11日の4日間、Demo主催の「EDUTRIP in 韓国」に参加してきました。ちょうどコロナウイルスの影響が心配される時期でしたが、予定どおりツアーに参加でき、全ての訪問先に行くことができました。

韓国の教育というと、受験競争のイメージが強いですが、「代案教育(オルタナティブ教育)」や「代案学校(フリースクール)」なども近年広がりを見せています。そういった学校教育の枠組みに捉われない多様な教育活動や市民活動に触れて、日韓の交流や議論の中から学び合うことをコンセプトとしたツアーです。

ツアーに参加した目的は、韓国における教育の現状や取り組みを知って、日本の教育を外から見ることで、両国の課題や問題を比較し、新たな気づきや学びを得たいという理由が一つ。もう一つは、これまで隣国である韓国にあまり関心を持ってこなかった反省と(ここ1年くらい韓国映画・ドラマの”にわかファン”になってしまい)、もっと韓国を知りたい!という気持ちが参加を後押ししました。

ツアーには大学生や学校教員、会社員など15人ほどが参加しました。

ツアーで訪れたところは、こんな団体や施設です。その一部をブログで紹介します。
  • 全国教職員労働組合(全教組)
  • 教育連帯体CIATE(シアット)
  • 実践教育教師の会
  • アハ!ソウル市立青少年性文化センター
  • PEACE MOMO
  • ソウル市立恩平青少年未来進路センター(クリキンディセンター)
全国教職員労働組合(全教組)

まずツアー1日目は、「全国教職員労働組合(全教組)」を訪問し、韓国社会と教育の歴史背景や教職員組合の役割、現在の教育に対する問題意識などを伺いました。

説明してくださった国際部長のファンさん(右)

全教組は、民主化運動の真っ只中で政府からの抑圧を受けながら「真の教育」を目指して活動してきた、教員の労働組合です。1989年に結成され、現在は競争中心の教育政策に対して、法改正や政策提言、教育の代案などを提起しています。

ファンさん曰く、日韓の教育行政の仕組みで一つ大きく異なるのは、韓国では地方議会内にある教育委員を市民が直接選ぶことができる(公選制)ということだそうです。

韓国では、2017年の政権交代によって、多くの市長や区長が保守派からリベラル派に代わりました。それまでの競争中心の教育を問題視してきた市民によって、地方議会のおいてもリベラル派が多く選ばれ、教育政策も大きく変化しました。

現在は、子どもの主体性や個を大切にする民主的な学校運営を目指す「革新教育」が地方を中心に広がっているそうです。

元々は、60年代から90年代の軍事政権下で、「権力側ではなく子ども側に立つ教育人として在りたい」という教育者たちの想いから始まった全教組ですが、その取り組みは常に権力に対して闘ってきた歴史でした。

日本では教職員がストをする権利はありませんが(授業放棄とみなされるため)、韓国では先生たちが学校の外でデモやストを行い、声を上げてきたことで、教育や社会を変えてきた歴史があります。教育者に声を上げる権利があり、社会を変えられるという意識があることに加え、その原動力には、いつまた政権が変わって弾圧を受けるか分からないという危機感が強くあるように感じました。

最後にハートポーズ♥で集合写真
▼実践教育教師の会

2日目に訪問した「実践教育教師の会」では、全教組とは異なり、現場からボトムアップで学校教育を変えていこうとする取り組みについて知ることができました。

実践教育教師の会は、現場の教室から教育を変えていこうとする先生たちの集まりで、2015年にできたネットワーク団体です。教師同士の情報共有や実践研究、出版などを行っており、地域グループや研修、オンラインでのコミュニケーション活動を主に行っています。
30年という長きにわたって続いている&役職者は参加できない全教組に対し、実践教育教師の会はなんとFacebookを通して生まれたということもあって、20~30年代の若い先生を中心に職位を超えたつながりが生まれています。

会場となった学校の前で。「(濃厚接触を防ぐため)挨拶は握手ではなくこうしましょう」ということで、みんなで”おさるさん”みたいになりました。

メンバーの先生方から伺った話では、学校の責任範囲が広がることで地域の問題が学校に責任転嫁されたり、学校教育における新しい取り組みやその変化に先生が対応しきれず先生のケアが必要とされたり、といった問題があるそうで、日本と似てる部分もあるように思いました。

▼社会を変えることができると思っていますか?

とある先生に「先生や先生が教える子どもたちは、社会を変えることができると思っていますか?」と聞いてみたところ、「わたしたちはみんな市民で、教育はよりよい市民を育てること。組織のために個人を殺す昔とは異なり、今の社会は個人の尊重によって組織を変えることができる。教育がそれを後押しするんだ」とのこと。

他にも、「いい教育をつくるのは教育庁ではなく、先生だ」「いい先生であるためには、いい生徒(学ぶ人)でなければならない」といった声もありました。実践教育教師の会は、考えるだけではなく、実践することに重きを置いているそうで、そういった先生たちの姿勢が子どもたちにもよい影響を与えているように感じました。

次回は、学校教育外で教育活動をしている団体について、紹介します。
(報告:岩岡由季子)

韓国の先生たちとツアーメンバーでハートポーズ♥で集合写真

おまけ:ツアー初日の夜ごはんは、サムギョプサル(豚肉料理)。美味しすぎておかわりしちゃいました


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