スウェーデンの成人教育機関を訪問しました (2)

ドイツの成人学習・教育(ALE)を進める財団、DVV Internationalのプロジェクトの一環で、スウェーデンのALE政策や取組を学び、施設を訪問しました。

前回は、スウェーデンの成人教育機関の概要に触れましたが、今回は、成人教育機関である民衆大学の見学の様子を中心にお伝えしていきます。

3)赤十字が運営する民衆大学 

一校目は、赤十字が運営する民衆大学に見学に行きました。ここでは主に、国境を越えた人道的価値観や対話、持続可能性や人権に関して重点を置いています。国際的な視野に立ち、赤十字の基本原則が学校運営の根幹を成しています。

この民衆大学は、ストックホルム南部のスカーホルメンというところにあり、地域的には移民が多く(ストックホルムの34%が外国ルーツに対して、スカーホルメンは83%)、ここに住んでいない人に限って、「治安が悪い」と言われるそうです(この話はあちこちで何度も聞きました)。一方で、ここに通う生徒や先生はそう思ってなく、実際は暖かい地域だと話し、一時間以上かけて通学している方もいました。

お話しの様子からですが、いわゆるスウェーデン人が住む地域と移住者が居住する地域とが別れる傾向があり、特に移民地域に対しての先入観があり問題となっているようです。

赤十字が運営する民衆大学とその校長のお話

一通り、学校や地域についての話を聞いた後、小グループに分かれて、一般コースと、特別コースに参加している方々に実際にお話を聞くことができました。

一人は、ヨルダンとトルコルーツの方に話をききました。

中東での進学に将来が見込めないこと、家族で移住できることから、スウェーデンを選んだとのこと。高校には行っていたけど、こちらでは資格として認められないため、現在スウェーデン語を学びながら、高校の内容を学んでいるとのことでした。医療系を目指しているようで、ここに足りないものは、と聞いたところ、実験室、だけでした。

もう一人は、特別コースを取っている方で、Sustainable development course があり、理論と実践を通じて、気候変動問題などを中心に、持続可能な社会に貢献できるようにする、というともののようです。

9月にコースが始まったばかりで、今後のコース展開はまだ知らないということでしたが、すでにキャンプに出かけ、サステイナビリティに関する映像を撮るなどしているそうです。コースがどのように自分や社会に貢献しているか、民衆大学のモットーである民主主義の発展への貢献について興味があったので聞いてみたところ、民主的であるからこういった教育を受けられるし、社会の一人として貢献したいから気候変動にも取り組みたい、というお話しでした。そしてここではそのためのtools(方法)とknowledge(知識)が得られるということでした。

Sustainable development courseの部屋の様子(お菓子やケーキを持ってくる人もいていつも充実しているそう)

学校では、Teachers are students(先生は生徒)ということを明言しており、実際どんな感じなのかを聞いたところ、まず、フレンドリーであること、そして、フレンドリーであることで、より自由に考え、行動でき、自分はこれでいいんだ、と思えること、と話していました。こういう関係性や態度がエンパワメントでもあるのだと思いました。その分、自分自身で考えて行動する必要がある、ということも言っていました。

訪問中に、校長が「ここにはネガティブな経験をした生徒も多い」とストレートに語り、「あなたがなんでこの学校に来たのか語って」とみんなの前で振ったりするので、最初は少し驚いていたのですが、学校や社会が、そういう人を取り残さず学ぶ必要性を前提として共有しており、「だからこそこういう成人教育の仕組みがある」ということが浸透していて自信もあるから、そういうことができるのだろうと後から思いました(もちろんそうは思わない人もいるとは思いますが)。

2)リサイクルデザインコースのある民衆大学の見学 

続いてやってきたのは、自治体が運営するEskilstuna(エスキルツーナ)という民衆大学です。

ここでは他と同様一般のコースと特別コースがありますが、特別コースでは、アートや工芸、ビルメンテナンスなどのコース、そして、自治体からの委託で、職業コースを開講しています。オンラインと対面のコースがあります。コースの参加者(ちなみに、学生という言い方はしていませんでした)は、機能的非識字者もいれば、博士の人もおり、教授法(教え方)がどのレベルでも機能しているそうです。

移転したばかりだという校舎。通いたくなりますね。

1/3は自治体(地域)、2/3は国からの予算で運営されているそうで、税金で賄われているとなると気になるのが評価や報告です。

どのようにしているのかという質問に対しては、例えば、オランダではこの制度が廃止されたことで、どのような影響があるのかを報告したり、パンデミックの際に移住してきた医療関係者の活躍と充実に貢献したりなど、プロアクティブな側面を報告することはあるそうです。一方で、統計的でないことや数字で表されないことも評価されるべき、ということもはっきり言っていました。

それが言えるのは、これは私の理解ですが、そもそも必要性から生まれた制度であり、文化にかなり根付いているからで、例えば、総選挙後(今回、極右政党が第二党になった)、自治体レベルの政策への影響はまだどうなるかはわからないということでしたが、特に心配されている様子はありませんでした。

おっしゃるには、スウェーデンのフォルケは、デンマークともノルウェーのそれとも異なり、歴史的には農民のためのフォーマル教育だけれども、提供するコースは、社会に応じて変化するべきで、それがアートだろうが何だろうが、理念は変わらない、と。そのことがとても印象的で、スウェーデンの成人教育の制度は魅力的でうらやましいことが多いですが、単に真似をしても意味がないと強く感じた瞬間でもありました。

その地域や社会での問題や根本的なニーズを見極め、解決やニーズを満たす方法を決め、実行していくことが、持続可能な社会の鍵ですが、スウェーデンではうまくそれが成人教育のシステムとして体現されていると感じました。

このエスキルツーナ民衆大学では、recycle designというコースがあり、担当している、アレックスさんにお話を聞きました。Beyond recycling wasteということで、単なるリサイクル推進ではなく、フォルケがどうしたら持続可能な社会に貢献できるか、公正な移行のための校内での取り組みについてお話していただきました。

リサイクルモールにあるオープンスペースにてアレックスさんにお話を伺いました。ここでももちろんコーヒー、コーヒー‥さすがに最後には胃にきました。

お話を伺うにあたり、ギネスにも登録されたという、世界で初めてのリサイクルモールに移動しました。学校から少し離れているのですが、ここにサテライトキャンパス的な部屋を構えています。

モールでは、実際にリサイクル品を購入することができ、服の交換会などの催しや、会議室利用などもできます。ただ、現実は世の中のみんながリサイクル品を買うわけではなく、このモールは少しでも喚起を促し、持続不可能な現実を知ってもらう役割があります。そのなかにこのコースが位置づいている、ということになります。

IKEAのリサイクルショップもありますが、個人店が多いそうです。

様々なリサイクル品を購入できます

アレックスさん曰く、リサイクルをどうデザインに組み込むについては、実践があまりないですが、キーとなる理念は「ごみを出さないこと」です。これはつまり「生産を最小限にし、消費を最小限にすること」です。

具体的な学習の進め方としては、どうしてここに至ってしまったのか、このままではどうなるかなどの構造的なことについては、理論として座学で学び、あとは、現実を「見える化すること、実感すること、体験すること」で学びを進めているそうです。

例えば、回収所で一番手がかかるのは、分別・整理です。リサイクルモールには、広大な処理施設があり、そこで、回収、分別・整理がされ、ようやく整理されたものの一部を作品づくりに使用しています。

特に多いのが服の廃棄で、紐解いていくと、歴史的に服飾産業とジェンダーとの関連から浮かび上がる問題だけでなく、伝統工芸などの技術など再評価すべき技術なども見えてきます。より実際に即した学びの方法だからこそ、その後の仕事や実践、生活に活きてくると感じました。

捨てられたレーコードで作られた作品の一つ

コースとしては、単に経験だけでなく、「学び」を含める必要があり、そこには少し「橋わたし」が必要だとアレックスさんは言います。具体的には今回は話されませんでしたが、まずそのことに意識的であること、そして、その場で必要とされる方法を考えだすことに実践者として意味があると感じました。

コースについてウェブサイトでは以下のように紹介されています:
  • さまざまな素材を再利用し、資源を活用できるように、さまざまなクラフト技術の知識を得ることができます。
  • 公正な移行に取り組むためのツールや、気候に配慮した暮らし方を身につけることができます。
  • マテリアルフローや生産状況に関する知識を得ることができます。
ここでも、ツールや知識を得るということが重視されており、より実践的な場であることがうかがえます。

持続可能性を実際に照らしてみると、例えば、学校が購入するものや、どのように資材を得るかなども考える必要があり、さらに多くのことをしないといけなく、実際は大変で、完ぺきはありません。コースでは、そういった現実の「醜さ」も認識していくことが、学びを進める上での一つの要素のようです。

私たちの社会は、大量生産・消費をしない持続可能な仕組みには作られておらず、そうしないようにも回っていません。そのことを認識したうえで、何が打開のための鍵になるのか探していくこと、規範を変えていくことが大事だとアレックスさんは言います。

話は尽きず、その後も、Social sustainability(環境面だけではなく、社会的な持続可能性)についても語られ、豊かな先進国の一つとしての責任や、私たちは、消費を通じて単なる消費者にとどまらないこと、コミュニティとしての繋がりなど熱く語っていただきました。

ところで、このアレックスさん、とても熱く配慮に富み、みんなを楽しませてくれる方なのですが、もともとは人権NGOの出身だそうで、教員資格はありません(なくていいそうです)。持続可能性と大量生産消費や廃棄への疑問とアートへの関心興味から、ご自身もこの民衆大学で学んだあとに、現在のコースの先生になったそうです。学校のある地域はフェアトレードタウンだそうで、そこの理事もされており、学校の参加者はフェアトレード大使だそうです。

ここで目の当たりにしたのは、参加者の熱意と関心を促す学校、そしてやがて実践者となり、職業とマッチされ、地域や社会とのつながりを持ち続けながら、次世代につないでいく‥ということの具体でした。

もちろん、「外から来ている人にはいいところばかりをまずは見せるのが世の常よね~」という話は研修仲間の間でも出ましたし、そうだと思いますが、でもその後に続くのは、「それを差し引いてもうらやましいよね」という声でした。
 
施設の見学の際アレックスさんから子ガモ(の行列)と呼ばれていた成人の私たち(広大なリサイクル施設の中ではぐれないように)

リサイクルデザインのコースの作業部屋

3)感想:見学を通じて

持続可能な開発のための学習とは

持続可能性が気候変動や環境の文脈でテーマ的に語られることはこちらでも多くありますが、社会への参加がそもそもの別次元にベースとしてあって、その次元が重なることで、持続可能な開発に向かっているように受け取りました。

改めて、持続可能な開発のための学習は、一つの側面ではないこと、つまりトピックとして扱うだけでなく、方法論が大事で、例えば、コースの作りが参加できるものか(その際どういう方法を使うのか)、どういう関係性をつくり、どのようにエンパワメントや意識変容につながっているのか、またさらに広げていくと、その前提にある社会(どのような社会を描き、築こうとしているか)など、コース以外の部分を評価の重要性を改めて感じました。

成人教育機関の役割

今回の訪問で、一人ひとりが大事にされるとはどういうことか、その具体を垣間見ることができました。驚いたのは、社会民主主義という共有された理念があり、その理念を体現するために必要なことは何かとなった時に、成人教育機関の必要性が生まれ、それを機能させるための仕組みをきちんと整え、運用されていることです。そこがスウェーデンの成人学習・教育すごさだと思いました。

限られた場面ではありますが、人々と話す中で、色んなライフスキル(意思決定、創造的・批判的思考、効果的コミュニケーション、対人関係、自己認識、共感性、情緒対処、ストレス対処など)が充実していると感じることがありました。人々の魅力はスキルだけに限定されたり、ある/ないに限るということではないですが、ひとつ思ったのは、これらは、個人の努力だけで充実できるものではなく、社会の中での関係性の話で、その社会が一人ひとりや参加を大事にする環境と仕組みだから、ライフスキルが充実しうるのだということです。あらためて、よりよい社会のために、どんな社会を描き、それを形作っていくのか、そのプロセスの重要性をかみしめました。

今回は、スウェーデンの成人教育機のいいところばかりをお伝えする形になりました。もちろん問題もあり、民衆大学どうしに競争がない故、質の改善にあてず、国からの資金を不正に流用したというニュースもあったそうです。また、社会民主主義という理念が一定の方向性を持つことに変わりはありません(それが市民の参加により決められたものではありますが)。

日本国内をふりかえると、市民団体による活動、1万4千を超える公民館、職業訓練など、他にもあちこちで成人学習・教育が営まれてきています。ただそれらが、「成人学習・教育」の枠組みで認識されておらず、それゆえ見える化されていないことも多く、また、ものによっては理念や概念が骨抜きになっていることがあるように感じています。

見える化することで、必要とする人にリーチしやすくなり、取り組みが浸透していきます。また、小手先のスキルを身に着けただけでは、社会へのインパクトは少なく、個人間で留まってしまいますが、何のための成人学習・教育なのか、意識的であることが大きな意味で持続可能な社会づくりにつながっていくと感じました。

以上、思い思いに綴りましたが、せっかくの訪問なので、少しでも情報や伊藤個人が感じたことを発信できればと考えました。今後も、DEARとしては、成人学習・教育プロジェクトとして、情報発信や実践の共有の場を設けるなどして、国内における成人学習・教育の取り組みの活性化に貢献していきたいと思います。
(報告:伊藤)

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