こんにちは。DEARボランティアの木村です。
観測史上初めて11月に積雪のあった11月24日(木)に、筑波大学付属視覚特別支援学校において、DEARの会員でもある青松先生のご協力で政治・経済の授業にお邪魔し、高校3年生を対象にDEAR事務局長の中村と「ケータイの一生」のワークショップを行いました。
▼驚くことがいっぱいの「盲学校」
筑波大学付属視覚特別支援学校は、いわゆる視覚障害のある生徒が通っている「盲学校」です。わたしたちは盲学校に足を踏み入れるのも、弱視や全盲の方に対してワークショップを行うのも初めてでした。
そこで、準備段階から、どういうことができるのか、どうしたら楽しんでもらえるかを考え、自分たちの生活に欠かせない、そして手で触れて考えることのできる「ケータイ(携帯電話)」を取り上げることにしました。
当日、わたしたちがまず初めに驚いたのは、学校に向かう途中の道でした。護国寺駅から徒歩10分ほどの、交通量の多い不忍通りと大きく複雑な交差点、長くて急な階段を含む通学路。点字ブロックはあっても、視覚障害のある生徒には危険が多すぎるのでは…と驚きました。
次に驚いたのは校舎内。入った校舎の中には点字ブロックはなく、生徒たちは普通に歩いていました。「あ、健常者と同じ校舎の一角に視覚障害の生徒の教室もあるのか」と勘違いしたほど、生徒たちは廊下も教室内も白杖などを使わずとも自由にスムーズに歩き回り、生活していました。
授業を行う教室で準備をしながら待っていると続々と6名の生徒が入ってきました。各々が自分でいつもの席に座り、持ってきたものを机に出します。友だち同士、「昨日の夜に突然LINEしてくるからさー」などケータイに関わる会話も聞こえてきました。
「みんなこの教室は寒くない?」先生はまず、教室の温度をかれらに確認します。外は雪も降る真冬日、指先がかじかむと点字が読めなくなってしまうのだということに気付き、ハッとしました。
▼生徒たちはスマホをどう使っている?
授業が始まり、まずはわたしたちの紹介と挨拶。そしてアイスブレイクとしてケータイにまつわる4択クイズをし、その中で、わたしたちがとても気になっていたことを聞いてみました。それは、「みんなはどのようにケータイを使っているのか」。
わたしはそれが想像もつかず、ガラケーならボタンも沢山あるし場所さえ覚えれば使えるかもしれないけど、スマホはボタンも少ないし画面の中のボタンは凹凸もなくわからないはず…ということは特別仕様のスマホがあるのだろうか?などと考えていました。
しかし、かれらが机の上に出してくれたのは私が持っているのと同じiphone。こうやって使うんです、と画面を指で素早くスライドさせると、機械音が早口で何かを喋り、開きたい情報の時に2回タップするとそのページを開き読み上げてくれるという。LINEはボイスメッセージで送り合うのだそう。
このような機能があるとは知らなかった私は、かれらの教えてくれる新機能に興奮しました。かれらのスマホの使い方もわかったところでまたクイズに戻り、現在のケータイの加入率など正解者が出ないほど意外な答えにみんなビックリしていました。
▼バラバラにしたケータイを触ってみると‥
アイスブレイクで雰囲気が和らいだところで、バラバラに分解したケータイを渡し、自由に触ってもらいました。
「うわぁ、ガラケー懐かしい」「バラバラだ!」「これは画面で、これはバッテリーか」みんな興味深そうに触り、組み立てて元の形に戻そうとする生徒もいました。そしてケータイの原料がどこから来ているのかが書かれた資料を配ります。
資料は生徒によって点字、拡大文字で異なり、点字の生徒は資料を手に取るとすぐさま撫でる様に手を滑らせ、普段馴染みのない沢山の原材料名や国名を読み上げると、声に合わせてスルスルと手を動かします。
ひとつのケータイに多くの国が関わっている事、そしてケータイを沢山使っている国と生みだしている国は違うことを知った後で、生みだしている側の国の問題に触れていくことにしました。
▼紛争鉱物と組み立て工場の状況を知る
そして、DVD『スマホの真実―紛争鉱物と環境破壊とのつながり 』(PARC/2016年/監督:中井信介)の音声を聞きました。先生からの解説を交えつつ、コンゴ民主共和国における鉱物資源をめぐる紛争の状況を学び、一人ひとり頭の中を整理しながら内容の要約をまとめ、発表しました。
次に、生産現場の労働者・工場主・近隣住民・国の役人・日本の消費者などケータイに関わる6人の状況や意見を1人ずつ読み上げました。6人の状況を把握したら、2組に分かれて自分たち消費者の立場からは何ができるかを話し合いました。
「こんな工場はなくすべき」
「でもそうしたら現地の人も雇用がなくなって困ってしまう」
「労働環境を監視して改善すべき」
「そしたらまた仕事が増えて、ケータイの金額が上がるけど」
「安ければいいと言う消費者は、この状況を知らないから言える。これを知ったらどうするだろう…?」
などなど、葛藤しながら自分自身にも問いかけるような話し合いが展開されました。5分と言われた話し合い時間はどんどん延び、10分以上使ってなんとかまとめました。
「フェアトレードのように、ちゃんとした労働環境でスマホをつくる。多少高くても、そちらを選ぶ人はいるはず」、「この状況を多くの人に広める。たくさん時間がかかるだろうけど、少しずつ意識を変えていく」などの発表があり、フェアトレードという言葉が出てきたことにも驚きつつ、かれらの前向きな姿勢に嬉しくなりました。
最後の感想では、「自分たちの生活に欠かせないケータイがこんな大きな問題を抱えているなんて知らなかった」「こんな風に、便利な物事の裏で苦しんでいる人がいる事例はもっとたくさんあるはず。もっと知りたい」などの意見が上がりました。
▼わたしの考えが変わった!
今回のワークショップはお互いに初めてのことだったので、双方によい刺激となったように思います。
わたしたちは、かれらは視覚障害があろうとも、わたしたちが思う以上に沢山のことを自分でできるということを学びました。例えば彼らの多くが全国から集まり殆どの生徒は寮生活ということです。そして、食事以外はほぼ自分でやっているそうです。
また、学校にはプールがありパラリンピック選手も輩出しており、理科などの実験も自分たちで実際に行うといいます。授業中は手元の点字表示ができる小さなコンピュータに点字を打ち込み、ノートを書いています。かれらに対する考え方はたった2時間ほどですっかり変わりました。
生徒たちにとっては、ポケットの中のケータイが遠い異国で紛争や問題を生んでいることに触れ、世界の問題を身近に感じてもらえたようです。高校生活も残りわずかとなったかれらが、これから、他人事だった見知らぬ人の問題を自分事として捉え、どんどん自分の世界を広げていったなら、新しい視点からの意見が世の中に出てくるのではないかと楽しみに思います。
(DEARボランティア 木村明日美)
観測史上初めて11月に積雪のあった11月24日(木)に、筑波大学付属視覚特別支援学校において、DEARの会員でもある青松先生のご協力で政治・経済の授業にお邪魔し、高校3年生を対象にDEAR事務局長の中村と「ケータイの一生」のワークショップを行いました。
在庫なし!ですが来年度にリニューアル発行予定です |
筑波大学付属視覚特別支援学校は、いわゆる視覚障害のある生徒が通っている「盲学校」です。わたしたちは盲学校に足を踏み入れるのも、弱視や全盲の方に対してワークショップを行うのも初めてでした。
そこで、準備段階から、どういうことができるのか、どうしたら楽しんでもらえるかを考え、自分たちの生活に欠かせない、そして手で触れて考えることのできる「ケータイ(携帯電話)」を取り上げることにしました。
当日、わたしたちがまず初めに驚いたのは、学校に向かう途中の道でした。護国寺駅から徒歩10分ほどの、交通量の多い不忍通りと大きく複雑な交差点、長くて急な階段を含む通学路。点字ブロックはあっても、視覚障害のある生徒には危険が多すぎるのでは…と驚きました。
次に驚いたのは校舎内。入った校舎の中には点字ブロックはなく、生徒たちは普通に歩いていました。「あ、健常者と同じ校舎の一角に視覚障害の生徒の教室もあるのか」と勘違いしたほど、生徒たちは廊下も教室内も白杖などを使わずとも自由にスムーズに歩き回り、生活していました。
授業を行う教室で準備をしながら待っていると続々と6名の生徒が入ってきました。各々が自分でいつもの席に座り、持ってきたものを机に出します。友だち同士、「昨日の夜に突然LINEしてくるからさー」などケータイに関わる会話も聞こえてきました。
「みんなこの教室は寒くない?」先生はまず、教室の温度をかれらに確認します。外は雪も降る真冬日、指先がかじかむと点字が読めなくなってしまうのだということに気付き、ハッとしました。
▼生徒たちはスマホをどう使っている?
授業が始まり、まずはわたしたちの紹介と挨拶。そしてアイスブレイクとしてケータイにまつわる4択クイズをし、その中で、わたしたちがとても気になっていたことを聞いてみました。それは、「みんなはどのようにケータイを使っているのか」。
わたしはそれが想像もつかず、ガラケーならボタンも沢山あるし場所さえ覚えれば使えるかもしれないけど、スマホはボタンも少ないし画面の中のボタンは凹凸もなくわからないはず…ということは特別仕様のスマホがあるのだろうか?などと考えていました。
しかし、かれらが机の上に出してくれたのは私が持っているのと同じiphone。こうやって使うんです、と画面を指で素早くスライドさせると、機械音が早口で何かを喋り、開きたい情報の時に2回タップするとそのページを開き読み上げてくれるという。LINEはボイスメッセージで送り合うのだそう。
このような機能があるとは知らなかった私は、かれらの教えてくれる新機能に興奮しました。かれらのスマホの使い方もわかったところでまたクイズに戻り、現在のケータイの加入率など正解者が出ないほど意外な答えにみんなビックリしていました。
▼バラバラにしたケータイを触ってみると‥
アイスブレイクで雰囲気が和らいだところで、バラバラに分解したケータイを渡し、自由に触ってもらいました。
「うわぁ、ガラケー懐かしい」「バラバラだ!」「これは画面で、これはバッテリーか」みんな興味深そうに触り、組み立てて元の形に戻そうとする生徒もいました。そしてケータイの原料がどこから来ているのかが書かれた資料を配ります。
資料は生徒によって点字、拡大文字で異なり、点字の生徒は資料を手に取るとすぐさま撫でる様に手を滑らせ、普段馴染みのない沢山の原材料名や国名を読み上げると、声に合わせてスルスルと手を動かします。
ひとつのケータイに多くの国が関わっている事、そしてケータイを沢山使っている国と生みだしている国は違うことを知った後で、生みだしている側の国の問題に触れていくことにしました。
▼紛争鉱物と組み立て工場の状況を知る
そして、DVD『スマホの真実―紛争鉱物と環境破壊とのつながり 』(PARC/2016年/監督:中井信介)の音声を聞きました。先生からの解説を交えつつ、コンゴ民主共和国における鉱物資源をめぐる紛争の状況を学び、一人ひとり頭の中を整理しながら内容の要約をまとめ、発表しました。
次に、生産現場の労働者・工場主・近隣住民・国の役人・日本の消費者などケータイに関わる6人の状況や意見を1人ずつ読み上げました。6人の状況を把握したら、2組に分かれて自分たち消費者の立場からは何ができるかを話し合いました。
「こんな工場はなくすべき」
「でもそうしたら現地の人も雇用がなくなって困ってしまう」
「労働環境を監視して改善すべき」
「そしたらまた仕事が増えて、ケータイの金額が上がるけど」
「安ければいいと言う消費者は、この状況を知らないから言える。これを知ったらどうするだろう…?」
などなど、葛藤しながら自分自身にも問いかけるような話し合いが展開されました。5分と言われた話し合い時間はどんどん延び、10分以上使ってなんとかまとめました。
「フェアトレードのように、ちゃんとした労働環境でスマホをつくる。多少高くても、そちらを選ぶ人はいるはず」、「この状況を多くの人に広める。たくさん時間がかかるだろうけど、少しずつ意識を変えていく」などの発表があり、フェアトレードという言葉が出てきたことにも驚きつつ、かれらの前向きな姿勢に嬉しくなりました。
最後の感想では、「自分たちの生活に欠かせないケータイがこんな大きな問題を抱えているなんて知らなかった」「こんな風に、便利な物事の裏で苦しんでいる人がいる事例はもっとたくさんあるはず。もっと知りたい」などの意見が上がりました。
▼わたしの考えが変わった!
今回のワークショップはお互いに初めてのことだったので、双方によい刺激となったように思います。
わたしたちは、かれらは視覚障害があろうとも、わたしたちが思う以上に沢山のことを自分でできるということを学びました。例えば彼らの多くが全国から集まり殆どの生徒は寮生活ということです。そして、食事以外はほぼ自分でやっているそうです。
また、学校にはプールがありパラリンピック選手も輩出しており、理科などの実験も自分たちで実際に行うといいます。授業中は手元の点字表示ができる小さなコンピュータに点字を打ち込み、ノートを書いています。かれらに対する考え方はたった2時間ほどですっかり変わりました。
生徒たちにとっては、ポケットの中のケータイが遠い異国で紛争や問題を生んでいることに触れ、世界の問題を身近に感じてもらえたようです。高校生活も残りわずかとなったかれらが、これから、他人事だった見知らぬ人の問題を自分事として捉え、どんどん自分の世界を広げていったなら、新しい視点からの意見が世の中に出てくるのではないかと楽しみに思います。
(DEARボランティア 木村明日美)
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