UNESCO2019フォーラム in ハノイ 報告2

7月2・3日に開催された「UNESCO2019フォーラムin ハノイ」に参加しました。2日目の最初のセッションのテーマは「真実を伝えるには?可能なのか?どのように?~ポスト真実の時代にどのように教育をすすめるのか」です。

真ん中はBridge47のJeppeさん

ゲストは、ジョージワシントン大学のマーシャル教授、レバノン情報リテラシーユース代表のサリーさん、南アフリカのNGO、Shikaya代表のディランさん。

マーシャル教授からは、冒頭に以下のような発言がありました「例えば、気候変動の事実を伝えると、嫌な気分がする。認知的な学習だけでなく、怒りや恐れなどの感情と共に学ぶ必要がある。感情の部分をケアしながら、教師と生徒の信頼が基礎になっていないといけない。情報は、ネットで様々な形で現れるので、教師が持っている情報を信頼してもらえるわけではない」

サリーさんからは、レバノンの状況がわかる以下のような発言が。
「オルタナティブ・メディアは、経済的安定性がなくなると、独立性がなくなる。レバノンはすべてのメディアが政党に支配されている。ソーシャルメディアは、人々をエンゲージしていくことが目的であるが、それが難しい」

ディランさんからは、歴史教育の難しさが指摘されました。
「歴史的事実を曲げてしまうことが、大きな問題である。歴史は、事実を学ばないといけないが、事実としての意味を持たないといけない。別の視点を出し、考えさせる必要もあるが、ホロコーストは必ずしも悪いことではないという話になってしまうのは危険である。さらに、教えないことを選ぶことがある。歴史を教えないことを選ぶ。歴史は恥ずかしく、罪であることは教えない、ということになる。そうすると、さらに大きな問題になる」


会場からは、以下のような意見が。
「若者より、大人が間違った情報を拡散しているのでは?」
「どこから情報を得ているのか?勝手に情報を集めているのか?を」
「現在、歴史を習っていない若者が、情報を拡散するのはあり得る」
「先生を守るためにも法律を変えないといけない」

さらに議論は続きました。

ディランさんからは、以下のようなコメントが。

「・私が知っていることは何か?
・私が知っていると思う事は何か?
・私が知っておくべきことは何か?
・私が知りたいことは何か?
を明らかにしていくこと。バイアスを明らかにするスキルが必要。お互いが尊重される環境づくり。愛情を持ったサイレンスは、子どもたちに考えさせる機会である。静かにするという事ではなく。寛容さが必要」

サリーさんからは、

白か黒か、ではなく、グレーの事が多い。リソースが限られていることが問題。選挙戦の時は、相手を落とし込めることに力が入る。黒か白かの先に答えがあるのに、その先を考えられない。誰もがジャーナリストになれる。ジャーナリストは常に、人間であり、バイアスがあるリソースとその意図はなにか、インパクトはなにか、を考えること」

「ポスト真実の時代」の真実とは何か、メディアリテラシーやポリティカルリテラシーをどう身に付けていのか、教育の役割は、世界共通のとても重要なテーマで、会場とともに盛り上がった議論でした。

次のセッションは、「社会性と情緒的学習のための革新的な教授法」と題して、3つの分科会が行われました。マインドフルネス、アート、バーチャルリアリティ(VR)の3つ。どれにも関心があったけど、VRを体験したいのもあり、VRの分科会に参加しました。

VRのセッション

他者の立場に立って考えることを体験できるのは、とても大きく、体験した後の変化が報告されているという発表に、いろいろ議論がありました。実際に、影響が大きすぎるのは、注意が必要で、ゲーム産業における制限は必要だということでした。

体験の後の感想の共有や、振り返りがとても重要だという話には、まさにシミュレーション教材と同じで納得。また、事実をシンプルにしすぎるという問題もあるということです。自然の一部になるという経験もあるそうで、例えば、サンゴ礁の一部になるという経験は、怖いけど興味がありました。

実際に、セッションの後、フランスに逃げてきた難民の生活をVRで体験できました。

自分が来たくて来たわけではないこと、家族のことを振り返ると悲しくなること、パリでデモに参加して仲間に会うこと、などを体験できました。実際にものをつかんだり、本を開いたり、旗を振ったりしてそこにいる実感が持て、全く新しい経験ができた気がしました。終わった後、担当者としばらく話しました。誰かに話したくなる体験でした。

まだまだ予算面などで課題がありますが、今後、開発教育の推進の新しい方法かもしれない、と感じました。また、そこで紹介された、The enemy というVRは、戦場カメラマンが作成したアプリで、敵をつくるのは、社会であり自分の意識であることを実感できる優れものだそうです。



午後の最初のセッションは、「証言を聞く:変革を起こしたきっかけ‐どのようにそれが起きたのか」で、インドネシアでISに参加しようとしたユースアクティビストのアクバルさんが、どのようにその危機を逃れたのか、や、南アフリカのベリーさんが、アフリカ系の人々への差別意識が変わった経験を話してくれました。

若者を取り巻く状況は過酷ですが、それを乗り越え、新しい視点を与えるための教育やいつでも相談に乗れる身近な大人が果たせる役割は大きいと思いました。

その後、各国の教師と生徒がESDやGCEDをとおしてどのような変化があったのかを報告しました。そして、最後にユネスコ平和と持続可能性教育局のスー・ヒャン・チョイ氏から、GAP(グローバルアクションプログラム)の後継プログラムとして、2020年から
「ESD for 2030」が始まることが報告されました。

会議全体を通して、ESDやGCEDが社会変革を目指しており、そのためには、知識だけでなく、社会性と情緒的学習や態度の学習も重視されており、世界各国でそれらをすすめ、成果を出すためにどうすればよいのか、という議論がされていることが良くわかりました。

一方で、2日目にはESDとGCEDを分けてセッションが行われましたが、今後さらにホリスティックな学びが必要になることを考えると、分ける意味はますますなくなる気がします。

ESDのセッション

また、参加者の誰かが言っていた「教育が社会を変え続けなければならない」という言葉のように、現在の社会の問題に対応する教育ではなく、教育が、持続可能な社会を描き、つくるものになる必要を感じました。そのために、開発教育が果たす役割は大きいと感じました。

会議の後は、ASPBAE(アジア南太平洋基礎・成人教育協議会)のメンバーとおいしいベトナム料理を食べました!

ASPBAEのKim Annさん、Helenさんと
(報告:中村)

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