ボルネオ研修レポート・その3 開発の進むアブラヤシ(パーム油)プランテーションと小さな希望

こんにちは。スタッフの八木です。
ボルネオ研修レポートの最終回では、もうひとつの経済と環境の共生のためのチャレンジをご紹介します。

実は今回、ボルネオ象に遭遇することができました。
しかも、アブラヤシ・プランテーションの中で!

象たちは、このプランテーションの中でとてもリラックスして過ごしているのだそうです。「観光客が押し寄せる川沿いよりも、こちらの方がストレスが少ないのかもしれない」というお話もありました。

象やオランウータンなどの動物たちは、しばしばプランテーションの中に入り込みますが、人間にはプランテーションを荒らす迷惑な存在=害獣(がいじゅう)とみなされ、銃で撃たれて殺される事件も頻発しています。通常、農園の周囲には電気柵が張り巡らされ、動物の侵入を防いでいます。

ですから、このようにプランテーションと野生生物が共生しているなんて、驚くべきことです。

動物たちは、殺されなければならないほどのダメージをプランテーションに与えているのでしょうか?NGO・HUTAN(ウータン)の代表のイザベラ博士は「NO」と言います。

NGO・HUTANのイザベラさん。プランテーション(白い部分)が広がり、森(緑色の部分)の分断化(fragmentation)が進んでいます。


HUTANの調査によると…
  • 象やオランウータンによるアブラヤシ生育へのダメージはほとんどなく、ネズミや虫によるダメージの方がずっと大きい。
  • 動物たちは刺激しなければ暴力的な行動をとることはないため、ストレスを与えないようにそっと移動を見守れば問題ない。
ということが分かったそうです。

HUTANは、分断化された森と森を再生した森林でつなぐ「緑の回廊(corridor)」づくりにも取り組んでいるのですが、そのためには、プランテーションの中にも回廊を通さねばなりません。実現には、プランテーション経営者の協力が不可欠です。

しかし、当初はNGOだというだけで門前払いされ、まったく対話に応じてもらえなかったそう。NGOは「パーム油産業を『悪者』と決めつけて、過激なネガティブ・キャンペーンを繰り広げる存在」として、避けられていたのです。

参考:Greenpeace UKによるネスレに対するキャンペーン動画「Have a break?」(ややグロテスクな表現が含まれます)

イザベラさんも当初は「企業=敵」と考え、「プランテーションなんか無くなってしばえばいい」と考えたこともあったそうです(わたし自身もそのように考えていたことがあるので、とても共感…)。しかし、これでは解決しないと、とある「対立解決(Conflict Resolution/mediation)」の研修を受けたことが転機となり「企業にも野生生物にもメリットがある共存の方法」を模索するようになったそうです。

そして、HUTANとの対話に応じ、共に変革に取り組んだのがレポート1にも登場するムランキン・プランテーション(Melangking Oil Palm Plantation)でした。

ムランキン・プランテーションでは、HUTANとの協力のもと、川沿いの古いアブラヤシの木を伐採し、植林して保全エリアをつくったり、成長したアブラヤシの周りの電気柵は撤去したりして、「緑の回廊」づくりを進めています。また、労働者が野生生物を見たらレポートする仕組み(アプリ)を整え、何頭かの象にはGPSを付けて行動をモニタリングを行い、成果を測れるようにしています。

マネージャーのシャフィークさん。「新しいやり方、考え方が必要」と、チャレンジをぐいぐい推し進めています。ムランキン・プランテーションについてはナショナル・ジオグラフィックのサイトに良記事が掲載されています。

すばらしい取り組みですが、アブラヤシを伐採して植林したら、その分だけ減収になりますよね‥? 経営への悪影響はないのでしょうか?

マネージャーのシャフィークさん曰く「農園の4%(約300ha)ほどを保全エリアにしています。もちろん、ここにアブラヤシを植えていれば、相応の収入が得られます。損失と考えることもできますが、現状でも経営は良好です」とのこと。

そして、「持続可能性に配慮した農園経営をすることでブランド力がつき『この農園からパーム油を買いたい』と言ってくれる企業が増えれることを期待しています」とのことでした。実際に、植林などの保全活動に社員が参加し、パーム油も購入している企業もあるのだそうです。
動物除けの電気柵。後ろのアブラヤシは3年目。もう少し成長したら電気柵は取り除くそうです。

NGO・HUTANとムランキン・プランテーションによるチャレンジは希望のひとつではありますが、まだここだけの、オンリーワンの取り組みです。生物多様性が急速に失われていく中、このような取り組みが主流化していかないと「もう間に合わないのではないか」という思いが募ります。

ちなみに、持続可能な方法で生産・加工されたパーム油と聞くと「RSPO認証※」を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。
※持続可能なパーム油のための円卓会議(Roundtable on Sustainable Palm Oil)の頭文字をとったもの。詳しくはプランテーション・ウオッチのサイトを参照してください。

では、ムランキン・プランテーションは「RSPO認証」農園かというと、そうではありません。前出のシャフィークさん曰く「RSPOの基準を上回る取り組みをしているし、認証を取得するつもりは今のところない」とのこと。例えば、日本の有機JAS認定と状況が似ているのかもしれません。


RSPO認証ラベル(右下)のついたハンドソープ

実は、「RSPO認証」の基準には、2018年11月改訂以前には「森林伐採や泥炭地開発などの点で不十分だ」という声がありました。また、現場での実施方法や監査・チェックにおいての問題点もたびたび指摘されています。
※参考:パーム油認証の環境面での課題(LUSH/JATAN川上豊幸氏)

認証がなくても持続可能性に配慮したものもあれば、認証油でも実態はよく分からないものもあるなんて‥。悩ましい‥!

しかも、2010年~30年の20年間で、パーム油の生産は約3倍になる※という予想までされています。人口増加を加味しての予想とはいえ、3倍ですよ、3倍!もう1度、ボルネオの熱帯林の分布遷移図を貼っておきます。
※参考:パーム油 私たちの暮らしと熱帯林の破壊をつなぐもの(WWFジャパン)


緑色が熱帯林です

生産量を3倍にもするためには、プランテーションの拡大は必須なうえ、労働者(特に移住労働者)はもっと必要になるでしょう。環境や人権の問題が置き去りにされていく気配が濃厚です。気候変動は喫緊の課題なのに、そして、持続可能な社会への方向転換が叫ばれているというのに‥。

どうしたら、より環境や人権に配慮したパーム油生産・加工が行われるようになるのでしょうか?日本のように、パーム油消費地に暮らす人々ができることはあるのでしょうか?

…とても難しい。でも、人間が始めたことなので、人間が解決すべき問題です。

消費者個人がパーム油をボイコットすることや、「より倫理的なパーム油」を選んで使うことは、できるアクションのひとつだと思います。わたし自身も意識しているのですが、効果は非常に低い…!また、消費者個々人に罪悪感を持たせ、選択を委ねるようなことには賛成できません。

やはり、企業・プランテーション経営者・投資家など、生産・加工・調達に関わり、責任を持つ方々が、より持続可能な方法を選択し、実行することが重要だと考えます。そのためにも、企業の変化の後押しをするような声を届けていくことが、市民の役割ではないでしょうか。

世界中に、持続可能なパーム油の生産・加工・調達を求めて活動するNGOがありますが、日本ではプランテーション・ウォッチというNGOのネットワーク組織があり、まさに、プランテーション開発問題をウォッチ(監視)しています。

企業向けの情報発信と併せて、例えば「あぶない油 総選挙」のような、気軽に企業に質問したり、声を届けたりできるウェブサイトも公開しています。ぜひ一度、サイトを訪問してみてください。

商品を選んでクリックすると、パーム油の調達の取り組みが分かります

実はDEARでは、プランテーション・ウォッチに協力して、市民の声を企業に届けるアクションを増やすことができるような、新しいパーム油教材も開発しているところです。既存の教材『パーム油のはなし』と併せてご利用いただける内容で、この3月には公開予定です。

DEARはこれからも、開発教育を通してプランテーション開発問題に取り組んでいきます。読者の皆様も、授業やプログラムを通して、また、市民として、一緒に行動していきましょう。
(報告:八木)

▼報告会やります!
2月14日(金)に本研修の報告会が開催されます。企業のCSR担当、教員、NGO、動物生態学者の方が同席する、なかなか面白いセミナーです。DEARスタッフの八木も参加し、後半のディスカッションの進行を担当します。
持続可能な森林経営のためのフォレスト パートナーシップ セミナー(主催:環境省)
https://www.gef.or.jp/news/event/fpp2020/

帰国後の1月29日(水)にはプランテーション・ウォッチの皆さんと都立高校でパーム油のワークショップをやりました。関係者が出てくるお芝居仕立てで実施しました。写真はリハーサルの様子。

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