こんにちは!DEARカレッジ第2回「平和」の回を担当します、ボランティアの登島です。
今回のDEARカレッジでは、ピースボート共同代表で核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)国際運営委員の川崎哲さんに講義をしていただきつつ、参加者全体で平和について考えていきました。
第3期DEARカレッジ参加者のみなさんと |
1.ディスカッション「何が戦争を起こすのか?」
初めにアイスブレイクを兼ね、何が戦争を起こすのかという問いについてグループごとにディスカッションを行いました。
・軍需産業で利益を得ている人たち
・人を疑う気持ち
・考えることの放棄
・戦争に対して発言しようとする意思の弱さ
・政府と国民の考えの齟齬
・誤解や偏見、満たされない人間の性
などの意見が全体で共有されたほか、「戦いと戦争は違う?」といった疑問や「短い時間で深い議論ができた」というような感想も聞かれました。
2.レクチャー①
次に、川崎哲さんから平和に関する講義をいただきました。ここでは講義からいくつかのポイントを抜粋してご紹介します。
【戦争はなぜ起きるのか】
川崎さんが子ども達や学生と話す際によく強調するのが、「戦争と争いは違う」ということだそうです。「人は争うものだから戦争は避けられれない」という意見はよく聞かれますが、それはあまりに乱暴だと川崎さんは話します。戦争は企業も関わる大規模な国家事業であり、そこには意思決定をする責任者がいます。
【G7サミット】
先日のG7サミットではロシアを厳しく非難するという声明が出されましたが、ICANはこれに対し強い批判を表明しました。なぜでしょうか。それは、この声明が核兵器そのものの非人道性を訴えるものではなかったためです。つまり、これはロシアの核は悪いけれど自分達の核は正当な抑止力だという主張で、ICANはそれに対して批判を行ったのです。
【核兵器禁止条約の考え方】
2017年、核兵器禁止条約が採択されました。この条約は、「どの国であろうと核兵器の所有は許されない」という、キノコ雲の上からではなく、下にいる人々のことを考える視点に立ったものです。国家の正義の話ではなく、被害の話をすることで条約は実現されました。しかし日本を含め、交渉段階から参加していない国々も多くあります。ここには、国家の安全保障のために核兵器が必要であるという議論と、人道的な観点から核兵器を持つべきではないという議論の対立が存在します。
3.ディスカッション「『安全保障』とは?」
川崎さんのレクチャーを受け、次に「安全保障って何でしょうか?安全保障とは誰が、何を、何のためにすることでしょうか?」という問いについてグループでディスカッションを行いました。ここでは以下のような意見が共有されました。
・国民の命を含め、国家が国益を損なわないように全力で戦うこと
・国が国民(主権者)の生活を守り、幸福でいられるようにすること
・国家が人々の命を守ること
・国民が生きていけるように、自国の国土や経済を含む安全を、軍事・経済・外交によって守ること
・それぞれの国の安全保障があり、アメリカと日本の安全保障も異なるのではないか
・戦争は国家事業だという話もあったが、安全保障は国の権力を守るための戦略ではないか
4.レクチャー②
安全保障のディスカッションを受け、川崎さんにレクチャーの後半部分をお話いただきました。
【様々な安全保障】
安全保障と言うと、国家の安全保障、人間の安全保障、地球の安全保障、共通の安全保障などがよく語られるものです。例えば人間の安全保障は人々の人権が守られ、命が守られている状態を指します。本来国家の役割は人々の人権を守ることですが、そうでない状態にある場合も多いため、国家の安全保障と人間の安全保障は対比で語られることが多いです。
【安全保障のジレンマ】
自国の安全を高めようとした国家の行動が、結果的に衝突につながる緊張の増加を生み出す状況を「安全保障のジレンマ」と言います。このジレンマの結果、起こっているのが世界の軍事費の状況です。世界全体で年間2兆ドル以上と、冷戦終結時期よりも高額になっています。
【規範と共に社会は変わる】
国連は無力だと主張する論拠として、ロシアの侵攻を止められていないことが挙げられることがあります。しかし、総会で決議を採択し、この行為は国連憲章違反だと明確にすることでプレッシャーをかけることができますし、経済制裁などの根拠にもなります。同様に条約の類も無力に思えますが、核兵器禁止条約の採択を受け、銀行が核兵器製造企業に対するお金の貸し出しを控える動きが広がっています。このように、まず規範を設けることで社会がそれについて来る例は歴史的にもよく見られることです(奴隷制、女性選挙権、LGBTQの権利、禁煙など)。
【核抑止力の主張に対し、示すべき論点】
核抑止力が大事だという主張に対しては、以下の論点について考える必要があります。
・道徳性:脅しの力で何かを達成することが正しいのか
・実効性:効果はあるのか、失敗しないのか
・伝染性:安全保障のジレンマを引き起こし、「我も我も」になるのではないか
・結果責任:破綻したらどうするのか
以上のことを考慮すれば、軍事力・軍事的抑止力だけが戦争を防ぐために解決法だという考えは間違っており、平和は平和外交、条約などで実現するべきものだと言えます。
5.おわりに
川崎さんからの2回のレクチャーを受けて、参加者からは「戦争を起こすものは自分達の中にあるということ、戦争の一番の犠牲者は罪のない子ども達=自分達であるということを子ども達が実感できるような学習が、将来の平和を作るのではないか」などの感想が挙がりました。
私は生まれが長崎県ということもあり、物心付いた頃から核兵器の問題が身近にありました。小学校に入学した年から毎年、夏は原爆資料館に行き、語り部の方のお話を聞いて育ってきました。そんな私にとって近年の「抑止力として核の保有は仕方がないよね」というような風潮は受け入れ難く、それでいて私自身それに反論できるような知識を持っている訳でもありませんでした。
今回の川崎さんのお話は、そのもやもやとした感情を言語化してくださったように思います。核抑止力が大事だという主張について論点を示し、説明してくださった部分が印象的でした。平和・核について知る姿勢を崩さず、規範の設置に向けた運動など、平和に向けて働きかけられる人間でありたいと思います。(報告:登島)
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