各国・地域の状況とコロナ禍の今、話して・考えてみよう Transformative Learning Journey[後編]

こんにちは、スタッフの伊藤です。

昨年から、「Transformative Learning Journey」に参加しており、研修の報告をブログでお伝えしてきましたが、今回で最後の報告となります。

第3回目の研修は新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、世界各地から集合した形ではなく、オンラインで研修を実施しています。今回はその報告の後編です(前編はこちら)。

自身の活動を紹介するメンバーの様子(写真は12月の研修より)

前回までは、コロナ禍のグローバルな問題とのつながりや、隠れた問題、問題の根本について皆で考えてきました。そして、それらを深堀りしていくと、開発問題における私たちの「4つの否定」と関連しているということを話しました。
  • 「構造的暴力の問題とそれに共謀(加担)していること」の否定
  • 「地球資源の限界」の否定
  • 「大きな生態系の代謝(循環)との繋がり」の否定
  • 「直面する問題の深刻さや大きさ」の否定
この「4つの否定」は、これまでの研修を通じてもみてきたことでしたが、そういった事実を前に、じゃあ、どうやったらよりよい社会につながるのか、実際にどうしたらいいのか、自分だったらどうするか…問題の大きさに疲弊してしまいそうです。

解決を阻む一因として、社会の一体性や互いの理解が足りないことがあると言えます。そして、意見が一致しない相手や、対立する関心を持つ人と、どうやってお互いに協働できるかということを考え、実際にやってみることが、一つの糸口になると考えられます。

そこで後編の研修では、どうすればよりよい collaboration(協働)やcommunication(対話)、conflict transformation(紛争転換)といったことにつながるか、参加や意思決定の在り方について考えました。

事前にファシリテーターと各参加者で、consensus(総意)、consent(同意)、 advice(助言)、 mandate(委任)の定義について確認し、各自のこれまでの協働や対話、紛争転換の経験を通じての学びをシェアすることになり、ストーリーを共有する形で、セッションが実施されました。

ストーリーは成功談だけでなく失敗談も歓迎で、大事なのは、何が学びで、その中での驚きや、何が重要だったかをシェアするということで進められました。全員シェアをしましたが、ここではそのうちの一つをご紹介します。

■参加者による対話や問題解決のストーリー

平和構築/メディエーターをしているナオミ(ケニア): 銃を持った兵士が平和構築者になるのはとても長い道のりだけれども、それは起こること。

<ナオミ>
以前に、二つの地域のテロリストグループと関わったが、大量の銃を持ち、人々から見張り代としてお金をとっているような状況だった。今はギャングからピースビルダー(平和活動か)になって、リーダーの一人は、平和の賞ももらった。学校で教鞭をとっていたり、学校から兵士やテロへ引き抜いていた人々も今同じ学校で教えている。

<ファシリテーター>
ほとんど魔法のように聞こえるけど…

<ナオミ>
ふふふ、魔法じゃないわよ。
彼らが集まってギャンググループになるときは、対政府組織との争いの際で、いつもさまよっている。やがてグループ内の人数が減り、疲れ、逃げ道を探し始めるが、逃げ道がない。ここが唯一のチャンスで、もう降参だとなった時にそこにいて、保護する。そして政府組織に対して、「私たちはこのグループと働いていて、私は彼らをトランスフォームするつもりで、私たちを通じてあなたたちの監視下になる」と話す。結果的に、安心できる場所となり、変革につながっていく。

リーダーの変革が、下部の組織に与える影響はとても大きく、これまでの経験からリーダーに対して尊敬の念があるので、リーダーが平和構築者になることにも同様に尊敬し、全体に与える変革の影響は計り知れない。

これまで社会に居場所なかったけれども、今は、権限があり、よき市民で、平和構築そのためには何でもできる。運送業、バイクなどの小さなビジネスをはじめる人もいて、それを政府もサポートしている。大事なのは、変われる理由を提供すること。

リーダーにアプローチするためには、まずは信頼が必要。彼らを報告したり売るためではなく、守るためにいることを伝えること。信頼できる段階までは匿名にし、彼らの誠実さを尊重すること。

私たちのアプローチは、ソフトのアプローチで、信頼を構築するプロセスであること。時には長い。時には踏みにじられることもある。信頼を構築するのは簡単ではない。言葉の壁もある。長い時間がかかるけど、いつかは功を奏する。

年上の人に橋渡しになってもらったり、女性が地域の平和構築に貢献しているケースもある。特に、ずっとつづいている地域の紛争解決には女性が欠かせない。兵士などの若い男性、夫、兄弟などへのアクセスがあり、女性が平和にするということに気づき行動し始めると、ようやく平和がもたらされたケースがある。

変革とは自身の中で起こること。
紛争の理由は内側にある。

なぜ自身や相手への信頼を失ったのかには、例えば非雇用といった表面的な理由ではなく、根底に理由があり、そこには各ストーリーがある。そのストーリーの核心に触れない限り、組織の変革は起こらない。なぜなら変革は個人の中で起こるから。自身や相手を信頼できて、変革が起こる。

でもほとんどの場合はこれが欠如している。紛争の中で育ったらそれ以外のことは知りようがない。ソフトアプローチも、対話なんて起きたこともないので想像もつかない。どのアプローチが効果的で、効果がないのか見極める必要がある。
(ナオミのストーリーはここまで)

前列左から6人目がナオミ(10月撮影分)

■変革を起こす学び

この研修を通じて「変革を起こす学び(transformative learning)」について、互いの実践に学びあい、実践活かすという半年のサイクルで行ってきましたが、そのサイクルの中では、これまでにない、アイディアをどうにか革新的に編み出す、ということを考えがちでしたが、ここにきて改めて内発的な気づきが問われていることを実感しました。

なぜ、協働や対話が大切なのか。
それは、相手に(自分のことを)理解してもらうため、というよりは、互いの気づきや学びを促すという意味で、変革への一歩になります。

そして、うまく協働や対話を進めるための方法はありますが、なぜその方法だったのか、謙虚に相手のおかれた状況を理解しようとし、お互いの信頼を築く、人間どうしの関わり合いが中心に置くことの大事さを、参加者のストーリーを聞いて実感しました。

一般的には、組織内の関係の質を高めることが大事、という言葉で要約できるかもしれませんが、ストーリーは一つではないこと、自分も相手も一人一人が参加者であることを認識したうえで、参加や意思決定のプロセスを丁寧にしていくことが、大きな変革の流れになっていくと改めて感じています(逆にそこが難しさだと言えると思います)。

オンラインセッションではスライドやブレークアウトセッションを使って進めました

■オンラインでのセッションを実施して

本来であれば一週間ほど合宿して実施するものを、分散した形で研修を実施し、毎回同じメンバーが参加できるわけでもなく、個人がおかれている環境によってコミットメントが下がることもありました。

課題はいろいろありますが、そんな中で、今回、このオンラインでのワークショップが成立したと感じるのは:

1)参加者がお客さんではなく、ファシリテーターも含め皆が参加者として協力的であったから
オンラインでの参加や参加型学習に課題はあります。ただ、今一度、参加とは何か、何のための参加かをふりかえると、自らの参加の姿勢や態度を見直すこともできると思います。オンラインでの限界や未知があることをお互いに理解し、共に場づくりを体現することも、参加の一つだと感じました(参加層にもよるとは思いますが)。

2)ファシリテーターの熱意や誠意のある働きかけと参加者への信頼があったから
ネット環境により出入りがあろうが、毎週出席できなかろうが、どんなにみんなが遅刻しようが、どんなにお題を聞いていなかろうが、参加の姿勢を尊重し、反応や展開に応じてテーマや展開を考え、柔軟で寛容で、最後はオンライン・ダンスパーティーもあり、何よりも楽しそうでした。

■最後に、自分にとっての「変革」とは

やや強引ですが、オンラインだけでなく、教室もしょせん箱の中です。すでに、いろんなデフォルトの中でおこなわれています。

変革をもたらすには、自由な発想がなければ目指す異なる世界も想像できません。そういう、新しい発想や考えをもつことにわくわくし、一人一人が希望てるような環境を、限られた中でもつくっていくことが、教育者としてできることなのかな、と思っています。

そして、そのためには自分自身がそうである必要があります。

この「transformative learning journey」の研修を通じて、途方もない社会の根本の問題や近代システムの亀裂についてさんざん考え、自分もこのシステムに加担していることをいやというほど実感し、何をやっても悪化する現代社会に絶望感を抱いてきましたが、そういう事実に直面しつつも、自由な発想の中に希望をもっていいこと、それが新たな道につながると感じています。

そして、その原動力になるのは、オンラインであろうと、オフラインであろうと、地域であろうと、大陸を越えていようと、その場を共にする人々との信頼や交流だと感じています。

今後のこの「transformative learning journey」は公式には終了となりますが、グループの必要性をメンバー一同が感じており、例えば、マッザがいるブラジルでは、今、アメリカよりも大変な事態になっており(アメリカも大変ですが)、州に権限もなく、ファベーラにみられるような貧困地域への感染拡大や、これまで以上の経済格差や政治の問題や犯罪など、ひどいと言います。

そのような絶望の中でも、仲間のアイディアが救い出してくれ、励みになっていること、Pipのためにも(メンバーでつい先日出産し、生まれた子どもの名前)やっていかないといけないと皆で感じています。

ということで、私たちの変革への旅路(transformative journey)は、まだまだ始まったばかりのようです。
(報告:伊藤容子)

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