第3回「気候変動」に引き続きブログを担当する森田です。
村瀬幸浩さんを迎えたDEARカレッジ第4回のテーマは「ジェンダー・セクシュアリティ」でした。
ジェンダーやセクシュアリティと聞くと、いろいろなテーマが包括されていると思いますが、今回は村瀬さんが自分事としての性を軸に、男女の性を中心とした性教育等にフォーカスをあてて率直にお話してくださいました。
デリケートなテーマという印象が強い「ジェンダー・セクシュアリティ」は、なかなか人と話す機会が少なかった、学校でも教えられてこなかった、教え方がわからないという方も多いと思います。
今回はそんなテーマに少し踏み込んで学んでいきます。
講師の村瀬さんと |
プログラム
- グループディスカッション①
- 国際セクシュアリティ教育ガイダンス
- レクチャー
- グループディスカッション②
- おわりに-わたしの感想
1.ディスカッション①
今回はまず初めに、自己紹介とウォーミングアップとして、これまでの「性の語り」(誰に語り、教えてもらったか。どんな教育を受けたかったか)についてグループで話し合いました。次のような意見が出ました。
- 昔はメディアなどで赤裸々な場面が多かったので、そこから知識を得たり、若い世代だと授業でやったことがまだ頭に残っている。
- 体系的に学んだ経験がない。
- 保健の授業で学んできたけど、唐突に男女で分けられて教えられた経験がある。
- 夏休み前に堕胎のビデオを見たことが今でも忘れられない。
- 子どもたちと一緒に性教育を学ぶプログラムに参加したのがよかった。
- 高校でやっても、みんな聞いてない。実感がない。身近に感じる内容ではなかった。
2.国際セクシュアリティ教育ガイダンス
さて、今回の講義に向けて参加者の皆さんには『国際セクシュアリティ教育ガイダンス』を読んでくるという宿題が出ていました。ここには、性教育においてどういった内容を学ぶべきかが示されています。
いま先進国をはじめとする世界では、5~8歳、9~12歳、12~15歳、15~18歳以上の4つの年齢グループに分けて、教育をしていくということが設定されています。様々な成長度合いがあることを考慮した年齢グループの分け方になっており、学校に通っていない子どもや、障がいをもった子どもたちも含むすべての若者が学べるということが強調されています。
具体的には、思春期、妊娠、避妊や暴力など幅広いテーマが学習課題として設定されています。これらを5~8歳で一通り学び、その後の年齢で肉付けしていくという道筋が示されています。
いくつかの科学的なエビデンスもガイダンスの中に示されており、例えば、禁欲のみを進めるプログラムは性交の頻度を減らす、性的パートナーを減らすということには効果を発揮しないということなどが書かれています。
現在の日本からすると、あまり馴染みのない教育内容が書かれたガイダンスではないかと思います。
3.レクチャー
村瀬さんは結婚を機に、ジェンダーについて考えるようになりました。生活を女性と共にする中で、お互いのセクシャルアイデンティティーが見えてきたそうです。また、女性の生理についても知るきっかけになったと言います。
お話の中で村瀬さんから、「学ばなければ人間は人間らしく性を生きられない」という言葉が出てきました。「性」というものは、年をとればなんとなくわかるものではありません。
それではどのように学んでいけばよいのでしょうか?
そしてそれらを私たちの生活にどう生かせばいいのでしょうか?
そしてそれらを私たちの生活にどう生かせばいいのでしょうか?
女性の性について何も知らないことに気づいた村瀬さんは、勉強を始め、生理について知り、生理で具合が悪い配偶者へのこれまでの態度などについて謝ったそうです。そしてわからないことがあったら教えてほしいということをお願いしました。さらに、妻にも男性の性について学んでほしいと話しました。妻はこれを受け止めてくれたそうです。大切なのは、お互い学び合う姿勢を忘れないということです。「性」は本能でわかるものではありません。
村瀬さんによると、女子の性教育においては、授業の中で良妻賢母、純潔というようなことを描くことが多く、男子校では、男が被害者になることはないので、勉強することがそもそもないという学校もあるそうです。
男性は性について勉強することもなく自分勝手に生き、女性は女性についてのトラブルについてのみ学んでいるという状況があります。
今もそうですが、昔は特に「共生」どころか「別生」としての教育が行われており、そもそも性教育が皆無のところもありました。そしてそれに対する反省を日本は今もしていないというのが問題であり、根本的に教育を変えなければいけないと村瀬さんは言います。
学生たちは性についてどう学んだか
ポジティブなイメージがない
村瀬さんは20年以上大学生に教えてきましたが、学生たちは性についてポジティブなイメージをあまり持っていないと言います。
授業がおもしろくなかった、説教っぽい、性病の怖さや中絶などを含んだ、抑制、注意、否定(近づくな、気をつけろ、不幸を招く)の3つが、今の日本の性教育のなかには含まれています。思い当たる方もいるのではないでしょうか?
村瀬さんの学生さんの中には、友だちから聞いたり、本や映像作品等から知識を得たりした人が多かったそうですが、そういったものの中には差別を助長するようなものも多く、そこから知識を得たとしても、いい関係を築くのは難しいといいます。
さらに教師や親たちは性について抑制のメッセージを発しながら「君たちのためなんだ」と言って押しつける。子どもたちはそれをうっとうしく思う、という悪循環ができてしまっています。
3つの性
性には「生殖の性」「支配の性」「快楽・共生の性」の三つの側面があります。
学校で主に教えられるのは「生殖の性」です。しかし、日本の教科書では、生殖器を正しく記していない(描いていない)場合もあり(例えば女性のクリトリスについて図示されていないなど)、性について正しく教わらないために知らないことが当たり前になってしまっています。
「支配の性」は、社会・マスコミから流される情報です。ニュースでもよく取り上げられる性暴力では、男性が主役になってしまっているものが多く、ここには、女性は対等な関係ではなく、自分のものにしていいという考え方を含んだ女性蔑視の考え方が存在しています。
そのため、性暴力についても、同意を得ることが不可欠であるなど、きちんと話をしなければいけないと村瀬さんはおっしゃっていました。
何が暴力にあたるのかしっかり把握する必要があります。殴る、蹴るだけが暴力ではありません。それを教育のなかでも扱わなければいけないということです。
3つの性の中でも「快楽・共生の性」は不真面目なものと捉えられてしまいます。最も日本の性教育の中で貧しい部分でもあります。しかし、この側面は決して不真面目なものではなく、人間が持って生まれたものでもあります。快楽を求めるためには、予期しない妊娠などを避けていくという力が大切になってきます。そのため「快楽・共生の性」はきちんと学ばなければいけない性の側面の一つです。
村瀬さんは「人間の性は、喜びを分かち合い、いたわり合って、ふれあいの安心感と快感を分かち合っていくのが基本。だから、自分の身体を大事に、他人の身体も傷つけないようにしようね」という風に家庭でも教えることができればと語りました。
日本の性教育の遅れとジェンダーギャップ指数
日本のジェンダーギャップ指数を上げるためには、性教育が鍵となってきます。つまりこの二つは同じ問題として捉えなければいけません。
すでに記してきたように、日本ではこれまで男女別生をベースとした道徳教育としての性教育が行われており、日本の学習指導要領では、受精に至る過程(セックス)については扱わないと明記されています。これは日本の低い性交同意年齢と矛盾していると村瀬さんは言います。
また、異性への関心についてのみ取り上げる点についても、同性への関心も取り上げなければいけないと語りました。日本の性教育は欧米諸国などと比べて、ちぐはぐで多様性に欠ける部分もあるようです。欧米諸国の場合は、科学、人権、人間関係教育という幅広い科目のなかで学んでおり、大きなテーマの中で性を扱っています。
これからどうなっていったらいいのか―私たちの暮らしと社会
ジェンダー平等を目指す新たな動き
現在は、#Me Too運動の広がりもあり、文科省も含めて暴力問題を扱わなければならないという動きが日本でも出てきました。しかし村瀬さんは、暴力防止というスローガンを掲げているものの、どうすれば仲良くなれるのかという点は扱っていないのが致命的な問題と指摘します。
ジェンダーについて語る際に自らのセクシャリティーを語らないことは、二つの問題が切り分けられてしまっているということだと村瀬さんはおっしゃっていました。性を語らずしてジェンダー問題を語っていると、人との関係構築や関係性の問題としてのジェンダー問題が置き去りになるのではないか、との問題提起をいただいたと感じます。
女性は生涯で約2280日、年数にして約6年間、月経とともに生きることになります。月経は女性の心と体を揺さぶり、大きな影響を与えます。村瀬さんは自身の勉強した経験を通し、学ばなければわからないことだと語ります。これまで教えてきた学生さんには、男性だけでなく女性にも、月経時になぜ痛みを感じるのか、なぜ身体に影響があるのか知らないという人が多かったそうです。
暴力防止はもちろん大切ですが、すべての人が月経など異性のことについて知ることが、性という観点から仲良くなる、ひいては共生につながるのではないでしょうか。
男性たちの意識の変化
学習指導要領改訂により、1994年から家庭科の授業が男子も必修になりました。かつては必修ではなかったことに驚かれる方もいるかと思います。
これ以降、男性の意識は変わってきていると村瀬さんは感じています。家庭のことをやることに抵抗を感じない男性も増えました。これは「男は仕事、女は家事育児」という古い考え方を乗り越えるような社会の変化です。
そういった中での課題は、社会の中でその考え方がまともに受け入れられていないということです。まだ男性が育児休暇を取りにくい風潮もあります。男性の意識が変わりつつあるのに、社会の遅れがそれを阻害するのはとても残念なことです。
村瀬さんは、男としての意識を後押しして、世の中の状況を変えていくために力を発揮する、そして、学校でも性の問題を取り上げるように親たちが訴えたりすることで変わることもあると言います。
共生について、村瀬さんは「柔らかな共生」というワードを用いました。
柔らかいというのは、相手を受け入れる柔軟性、自分を相手の前で率直に明らかにする柔軟性という意味です。そして、自己解放、自己肯定、相手を尊重しフラットな関係で生きることが柔らかな共生であり、中でもパワーの要らないセックスこそ最も柔らかな共生というように、男性のセックス観も基本的に変えていく必要があると締めくくりました。
4.グループディスカッション②
レクチャー後のディスカッションでは以下のような感想が出ました。
- 男性の方からこういう話を聞く機会があってよかった
- こういう話を率直な言葉で村瀬さんの年代の男性から聞けるのはびっくりした
- 自分の学校でこういう話は難しい
- 性の話の前に自己肯定感を上げると話がもっと入ってくる
- 性のこともお金のことも人間の欲に絡むことは家族の中ではあまり話さない
- 10代の妊娠中絶が多い理由は、そういうことをちゃんと話せる場がないから
5.おわりに-わたしの感想
私は村瀬さんが自分のこと含め、率直にお話してくださったのが嬉しかったです。
ディスカッションも少人数ということもあり、とても話しやすかったですし、皆さん正直に自己開示してくれたのが、充実した話し合いにつながったと思います。
今まで私が受けた教育のなかでは、保健の先生が淡々と人間の生殖のことについてのみ教え、何度も赤ちゃんができるまでのビデオ(受精してからの過程のみ)を見て、生理についての授業は男女で分けられて行われてきました。それが普通だった私にとっては、いい意味でこの講義は衝撃でした。
今まで受けてきた教育を変えることはできませんが、今回のような講義を受けたり、学んでいったりすることはこれからもできます。
男性も女性も性について茶化さず話し合い、考えられるような姿勢をもち、それを受け入れてくれる世の中になっていけば、本当の意味で男女平等というものが実現できるのではないかと希望も湧きました。
異性の身体や多様性のある性について、知らないことをこれから学んでいくのは遅くないと思います。その学びが社会を変えるきっかけになるかもしれません。
(報告:森田)
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